『昭和の怪物 七つの謎』

『昭和の怪物 七つの謎』
保坂政康
講談社現代新書、2018/7/19、¥950(有隣堂亀戸)

東條英機、石原莞爾、犬養毅、渡辺和子、瀬島龍三、吉田茂を中心に、著者がこれまで取材を通じて積み重ねた戦前戦後の動きをまとめた本。

インタビューという個人対個人のつながりを通じて取材を重ねたことがよくわかる。ただそれだけに、世代的なものもあると思うが、自分が知り得たことをことさら大げさに記述している印象を受けた。また、史書ではないので構わないが、史実とインタビューによる個人の記憶、著者の私見が混在し、結局どこに真実があったのかが見えづらくなっているような印象を受けた。

太平洋戦争をめぐる登場人物の内面に迫るには良い本だが、端々に安倍総理を貶める記述があるのは歴史の書籍としては不要だろう。

●感情と評価は別です。どのような場にあっても自らの意見はきちんと言いなさい。遠慮する、あるいはその場でいい子になるというのでは真実に近づけないんですよ。(p.143、犬養道子=犬養毅孫)

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『装幀室のおしごと。2 ~本の表情つくりませんか?~』

『装幀室のおしごと。2 ~本の表情つくりませんか?~』
範乃 秋晴
メディアワークス文庫、2017/7/25、¥724(有隣堂亀戸)

わらべと巻島の装幀室コンピ第2巻。盲目の音楽家が自分に光を与えてくれた恩人に向けて装幀を依頼する話と、新人イラストレーターを探すコンペのために奮闘する話の二編。

コンビの分担もこなれて来て読みやすい。話も人情を混ぜつつ非現実的にならない程度に装幀をうまく使った本。

面白く読んだ。

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『活版印刷三日月堂 雲の日記帳』

『活版印刷三日月堂 雲の日記帳』
ほしおさなえ
ポプラ文庫、2018/8/3、¥734(有隣堂亀戸)

三日月堂シリーズ第4巻完結編。

弓子が通う中古書店浮草の店主水上は、お客様へ情報として出していた浮草だよりのあとがき「雲日記」を書いていた。水上の友人で出版社を経営する岩倉が彼を訪ね、雲日記を出版しないかと誘う。過去にわだかまりのある水上は一度は断るが、あることで弓子に過去のことを打ち明けたことで出版を決意する。活版印刷での出版を依頼された弓子は、本町印刷の悠生、バイト女子高生楓、大学の課題で三日月堂と縁のできた女子大生豊島、安西や水上の大学時代の同級生など多くの人の助けで本を完成させる。そして水上の魔法により弓子は悠生と共に生きていくことを決意する。

余韻の残るとてもよい終わり方だった。だからこそ逆に、活版印刷で事業を成り立たせていくことの難しさが浮き立って、印刷屋の自分としてはとても複雑で悲しい気持ちにもさせられた。本町印刷からの発注をあてにして事業がたちゆくのか、機械生産性や出版業の縮小を肌で感じるだけに、悠生や弓子には頑張って欲しいと思う。

●プレーンな文字組なのに、文字ひとつひとつが独特の空気を孕んで並んでいる。こんなに深みのあるものだとは。印刷所に勤めているのに、活版印刷の文字などほとんど目にしたことがなかった。(p.33)

●本とは不思議なものだ。思いが綴られているのに、手紙のように決まった相手に送るのではない。たくさん刷って、ただ頼りなくおずおずと世界に差し出される。
 正しい宛先はない。どこに着いたら正解ということもない。そのまま消えてしまうかもしれないし、知らない誰かの心に住み着くこともある。(p.332)

☆あずまんの「誤配」に対する応答に見える。意識はしていないだろうけど。

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『これは経費で落ちません! 4 ~経理部の森若さん~』

『これは経費で落ちません! 4 ~経理部の森若さん~』
青木 祐子
集英社オレンジ文庫、2018/6/21、¥594(有隣堂亀戸)

天天コーポレーションの経理部員森若沙名子は、営業部の太陽と付き合い始める。外資系から転職して経理部に配属された空気の読めないバリキャリ美華に沙名子は振り回される。広報部の華である織子が経理部の上司勇太郎と不倫しているところを見てしまった沙名子は、両名にそれぞれ見なかったことにしたことを態度で示す。一方、経費を流用しているものの、今までうまく立ち回り沙名子も見ぬふりをしていたマリナは、美華にキャバクラ副業の尻尾を掴まれる。さらに沙名子は織子の夫の売れない映画監督が女性とホテルに入るところを見てしまう。

人間関係が複雑に入り組んだ4巻。その中で、職人ひとすじ、マイスター表彰を受けながら若い女性社員藤見アイに熱を入れあげていると思われていた留田が、実は自分の腕が落ちていることを自覚し、アイの才能を見込んで全てを教えていたということを沙名子が知る話など、硬軟合わせた濃密な一冊。

一点、沙名子はマリナの副業を疑いながら確証を持てずにいたことになっているが、マイナンバー法施行後は住民税で発覚するはずなので、そこをどうごまかしているのかの説明があればよかったと思った。

人間関係を追うのに少し手間取るものの、分かりやすく説明されてい流のでますます面白くなってきた一冊。

●「ずっとやっているとね・・・。なかなか、認めたくないもんなんですよね・・・。自分が、前みたいに、いい石鹸を作れなくなっているっていうことを」(留田、p.92)

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『帳簿の世界史』

『帳簿の世界史』
ジェイコブ・ソール (著), 村井 章子 (翻訳)
文春文庫、 2018/4/10、¥950(有隣堂亀戸)

文庫版が出版されたのを見て再読。

ローマ帝国時代から簡単な帳簿はあったが、本格的な複式簿記を発明したのは中世イタリアの商人達だった。複式簿記の発明以降、会計の透明性公正性は国の繁栄をもたらし、その堕落は国の衰退を招いて来た。歴史を問わず、それは普遍の法則とも言える。現代においてすらエンロンやリーマンショックのように会計をないがしろにしたものは必ずその報いを受ける。問題は、会計そのものの中に、不透明性を招く性質が潜んでいることで、人間がそれを克服できるかどうかは楽観できない。権力とは財布を握っていることであり、その財布のあり方が権力の行く末を決める。

会計はそれを知る者には重要性が自明なのに対し、わからない者には胡散臭いものにしか見えないという性質があって、それは会社経営でも同じだと実感する。

何度でも読み返したい。

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『読書という荒野』

『読書という荒野』
見城 徹
幻冬舎、2018/6/6、¥1,512(有隣堂亀戸)

今まで見城が書いてきたことの焼き直しだが、「読書」という観点からまとめ直したもの。見城にとって読書が人生にとって抜き差しならない営みであったことは伝わった。ただ、読書は極く個人的な営みだから、彼にとって大事な本でも自分には共感できないものがあるのは当然だろう。例えば「深夜特急」は彼にとっては非常に大事な本だが、自分はそこまで共感しなかったし、何が面白いのかよくわからなかった。また見城の三島由紀夫への傾倒は、時代が違うこともあるし、自衛隊で自決することの愚かしさしか感じないので共感できない。そうしたことを理解した上でメタ的な視点に立って読めば、本書は読書がいかに人生を豊かにするかを体感できる一冊。

●旅の本質とは「自分の貨幣と言語が通用しない場所に行く」という点にある。貨幣と言語は、これまでの自分が築き上げてきたものに他ならない。それが通じない場所に行くということは、全てが「外部」の環境にさらされることを意味する。
 そうした環境では自己愛は成立し得ず、裸形の自分がさらけ出される。必然的に自分と向き合わざるを得ない。つまり自己検証、自己嫌悪、自己否定を余儀なくされるのだ。だから僕は、旅ほど人生を改変することに作用するものはないと思う。旅の意味合いをこれほど鮮やかに描いた本は他にはなく、僕は沢木文学の最高傑作だと考えている。(p.172)

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『王妃の帰還』

『王妃の帰還』
柚木 麻子
実業之日本社文庫、2015/4/4、¥600(有隣堂亀戸)

お嬢様女子中等部2年の範子は、自分たちの地味グループにクラスの姫グループから追放された滝沢を受け入れることになる。それまで平和だったクラス派閥は入り乱れ、権力闘争につぐ権力闘争、そして自分たちのグループも崩壊の危機を迎える。

多感な女子中学生の世界はこんなに厳しいのか、とため息をつきながら読んだ。登場人物の説明が若干わかりづらく、誰が誰でどういう関係か把握するまでは読み進めるのが辛かったが、それを把握し、権力闘争が激しくなってからは一息に面白く読めた。

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『動物農場〔新訳版〕』

『動物農場〔新訳版〕』
ジョージオーウェル
ハヤカワepi文庫、2017/1/7、¥756(有隣堂亀戸)

ソビエト革命を風刺した小説。

どの政治体制を選ぼうと指導者は独裁を築くものだ、と言う一般論としても読める。

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『ばけもの好む中将 七 花鎮めの舞』

『ばけもの好む中将 七 花鎮めの舞』
瀬川 貴次
集英社文庫、2018/5/18、¥583(有隣堂亀戸)

宣能は花見を企画し、12の姉と春若が出会うよう仕向ける。それを右大臣に見られたことで宣能は右大臣の後継者としての仕事を承諾する。右大臣に導かれ裏の仕事を請け負う多情丸に引き合わされ、幼い頃自分を襲ったのが彼であると知る。

ばけもの好むと言いながら、もはや怪談ではなく人間同士の政略物語になった本シリーズ。書中「本当に恐ろしいのは人間」「それを言うな」と言う会話があるが、本書への書評に対する解答と見て良いのだろう。

難しく考えずに読む本。

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『笑う書店員の多忙な日々』

『笑う書店員の多忙な日々』
石黒 敦久
メディアワークス文庫、2018/5/25、¥659(有隣堂亀戸)

四谷にある書店で働く奈津の元に新人バイトの紗和が入ってくる。認知症気味のお客様の接客、小学5年の男の子がビブリオバトルで女の子に告白するための本を探す手伝い、サイン会を開いた著者の娘が乱入して大騒ぎになる話、そして奈津がゲラを読んで気に入り全店フェアを仕掛けるために奮闘する話、の四編が収められている。

書中に「ビブリア古書堂」への言及があり、著者が意識しているのがわかるが、本書はそれに匹敵するくらい面白く読んだ。今年一番のあたり作品。ファンレターを送った。

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