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『アンと青春』

『アンと青春』
坂木 司
光文社、2016/3/17、¥1,728(amazon)

『和菓子のアン』の続編。東京デパートにある和菓子店みつ家でバイトするアンは、今作でも椿店長、桜井さん、乙女立花くんに囲まれ奮闘する。今作では、時節柄放射能に敏感な母親のエピソードもあり、時事問題にも触れている。

別のエピソードでは、乙女立花は、同じような境遇ながらしっかりと自分の道を歩みつつある、みつ家の向かいにできた洋菓子店Kの店員柏木に嫉妬し、それをアンに叱ると言う形でぶつけてしまう。折悪しく師匠が店に来ており、たしなめられたことで落ち込んだ立花は金沢に旅に出るのだった。

出て売る和菓子がいかにも上品に美味しそうに描かれていることもさりながら、各登場人物が丁寧に描かれ、小説の世界に浸ることができる。ぜひ自分もみつ家に行ってみたいと思わせる作品。

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『ウィンター・ホリデー』

『ウィンター・ホリデー』
坂木 司
文春文庫、2014/11/7、¥724(amazon)

『ワーキングホリデー』の続編。元ホストで現在宅配便の配達員をしている大和と、突然現れた息子の進との出会いと一夏の出来事から半年、冬休みに再び進が大和の家にやってきた。新人バイト大東がおせちを落としてしまったために出会った老夫婦と、進たちが一緒に料理するようになったり、ひったくりをとらえるハチさん便と進たちのエピソードなど今回も日常の延長にあるちょっとした事件を緩やかに描く。離婚した元妻と出会うところまで、シリーズ第二弾としては無難な展開。

若干都合の良すぎる展開も見られるが、そこまで含めてのホリデーシリーズと思うので、面白く読めた。

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『ニシノユキヒコの恋と冒険』

『ニシノユキヒコの恋と冒険』
川上 弘美
新潮文庫、2006/7/28、¥529(amazon)

女性にとって言うことなしのいい男、ニシノユキヒコとの思い出を、彼と付き合った10人の女性の視点から語る。誘蛾灯に導かれるように女性はニシノくんに近づき、付き合うが、しばらくするとなぜかニシノくんは振られていまう。いつも冷静で優しいニシノくんが本の一瞬見せる心の中にある冷たさ、人を寄せ付けない厳しさが女性を遠ざけていく。

川上弘美の小説は、もう少し濃いものはドロドロとして男の自分には読みづらいが、本書はとてもバランス良く、男にはわからない繊細な女心が丁寧に描かれ、10人の女性それぞれがいきいきと、魅力的で、本書を読んだ後では街の女性が皆美女に見えてくるから不思議。また、彼女の小説はいつもなんとも言えない温度や匂いを感じさせ、とても気持ち良くマッサージされている気分になる。

良書。

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『死ぬ前に後悔しない読書術』

『死ぬ前に後悔しない読書術』
適菜 収
KKベストセラーズ、2016/3/26、¥1,404(amazon)

先輩のT氏紹介により購入。本を読んでいない人間、情報を取得するためだけに本を読む人間を「とりかえしのつかない人間」と定義し、そうならないためにどう本を読むべきかを問うた本。

ということなのだが、著者の主張を一言で言えば、「古典を読め。ゲーテを読め」というメッセージに尽きると思う。我々一人一人の価値判断など大したことはなく、時代の淘汰を経て生き残った古典こそを読み、それを自分の思想の指針として生かせ、ということを様々に回りくどい言い方で手を替え品を替え主張している。ただ、著者の引用する哲学者は19世紀のものが多く、20世紀半ば以降の思想についてはほとんど見当たらない。著者は「一流の著者の主張に添え」と主張するわけだが、ロランバルトによれば、すでに作者は死に、読者が誕生しているわけで、そこにある書物をどのように読むかは読者に委ねられている。その意味で言えば、著者の主張に若干の古さを感じる点もあった。

また、古典を読むことそれ自体に異論はないが、様々な哲学者や社会学者などからの引用を多用し、「だから〜なのだ」という著者の論法は若干乱暴で、説明不足なことは否めない。特に著者の本を読みなれない読者(自分を含め)多分に混乱するだろう。また、多種多様な視点を持て、というのが本書の主張のはずなのに、例えば唐突に「安倍首相は一方的に自分の正義を唱え、反論には聞く耳を持たない。凡庸であることに深く満足している。こうしたバカは右にも左にもいます。こう言う人とは話がかみ合わない。しかし、議論は勝ち負けではありません。議論は合意を目指し、利害を調整するために行われる。共通の了解、前提、目的を置かなければ、議論自体が成り立たない。要するに子供の喧嘩を大人がやっているわけです」(pp.40-41)と、断定的に述べる。安倍首相が一方的か、凡庸に満足しているか、共通理解を目指さないか、ということはそれ自体検証が必要なはずだが、その手続きを完全に飛ばしている。このような論法が随所に見られ、もともと著者と思想を共有していない読者は論の展開についていくことが難しいだろう。

結論として、「読書術」として読むのは難しく、著者の思想にもともと親しんだ人が読むと楽しいだろう本ということができる。これこそ著者自身のいう「とりかえしのつかない読書」になりはしないか、と問うのは皮肉だろうか。

▲『ゲーテとの対話』は人類の必読書です。
 私だけではなく、ありとあらゆる人が、『ゲーテとの対話』を薦めています。森鴎外、芥川龍之介、太宰治、三島由紀夫、水木しげる、トーマスマンも愛読した。
[略] ゲーテを読めば、人間の精神の病は治ります。(pp.138-139)

▲偉大な人間が全生涯と財産をかけて獲得したものが、岩波文庫三冊で手に入るわけです。しかも、一冊1000円もしない。図書館なら無料で借りることができる。そう考えたら、それを読まないのは頭がおかしいとしか言いようがありません。(p.142)

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『切れない糸』

『切れない糸』
坂木 司
創元推理文庫、2009/7/5、¥950(amazon)

父親の突然の死で、実家のクリーニング店を継ぐことになった和也。預かる衣類の謎を、喫茶店ロッキーで働く沢田や、ベテラン職人のシゲさんなどの助けを借りて解決しながら、和也自身もクリーニングについて学び、成長していく。

坂木司の小説はあまり深く人を傷つけるような話ではなく、ほっとするような話が多いので、安心して読める。本書も楽しく読んだ。

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『フランス現代思想史 - 構造主義からデリダ以後へ』

『フランス現代思想史 - 構造主義からデリダ以後へ』
岡本 裕一朗
中公新書、2015/1/23、¥950(amazon)

今まで個々の思想家について学んだことはあったが、歴史の流れの中でそれぞれを整理して読んだことがなかったので、本書は大変勉強になった。

フーコーについても簡明に説明されており、今までよくわからなかった各著書の思想上の位置付けがよくわかった。

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『いちご同盟』

『いちご同盟』
集英社文庫、1991/10/18、¥421(amazon)

中学三年の北沢良一は、同級生の野球部のエース、徹也に試合のビデオ撮影を頼まれる。それを持って、病院に持って行き、入院中の直美に出会う。良一は不治の病を患う直美に惹かれていくが、同時に自分の生きる意味にも疑問を持つ。ある日「あたしと、心中しない?」と問われ、心に究極の決断を突きつけられる。

アニメ「四月は君の嘘」の作中に出てきたので読んだ。透徹して厳しい空気感が文章に一貫し、短い小説ながら、中学生の揺れ動く心理を的確に描いている。深い余韻を残す良作。

●ドラマが始まったのに、山場の来ないうちに、チャンネルを換えられてしまう。残酷な仕打ちだと思わない?でも、私は運命を恨むわけにはいかない。運命があなたをあたしの前に連れてきたのよ。だからあたしは、この運命を、喜んで受け入れようと思うの」(p.190)

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『読書のチカラ』

『読書のチカラ』
齋藤孝
だいわ文庫、 2015/6/12、¥702(有隣堂亀戸)

どんな本を読むかで人生が決まる、ということを主要な論点として、具体的にどのような本をどのように読むのが良いかを著者の視点から述べる。

古典、漱石などの文学を読め、現代の本はあまり役に立たない、というのが重要な主張なのだが、古典といえど、その時代にはたくさんのクズ本が出ていたはずであり、出版状況はそれほど現在と変わるところはなかったと思われる。その中で、時代の淘汰を経て生き残った本と、現代のまだ評価の定まらない本を比較すること自体があまり意味のあることとは思えなかった。とりあえず未来の古典となりそうな本を片端から読むしかないのではないか、と思った。

また、水村美苗の『日本語が亡びるとき』を引いて、英語に圧倒され日本語は滅びる、と日本語文化の危機を訴えるが、歴史を通じて漢字や英語などの影響を受け続けてきたのだから、昔の日本語はすでに滅びている、ということもできるし、変化し続けるものこそが日本語であるということもできると思うので、著者の意見には同意しかねる。

主張自体にはあまり賛同できなかったが、本を読む技術については参考になる点があった。


●[本の読み方として]特に有効なのは、本を買った直後に[喫茶店に] 立ち寄ることだ。およそ読書のモチベーションというものは、買った直後が最も高い。(p.158)

本書の推薦書:「E=mc2 世界一有名な方程式の伝記」

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