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『デービッド・アトキンソン 新・観光立国論』

『デービッド・アトキンソン 新・観光立国論』
デービッド アトキンソン
東洋経済新報社、2015/6/5、¥1,620(L)

少子高齢化の進む日本にとって、将来の経済を成り立たせるためには移民が必要だが、移民をよしとしない日本では、考えうる選択肢は「短期移民」=「観光客」である、という立場から、いかに観光立国を目指すかについての方策を示した本。著者の指摘は示唆に富んでおり、非常に勉強になった。

また、本書の分析自体もそうだが、著者の(さまざまな資料や統計から客観的に状況を分析する)分析手法も大変参考になった。

⚫︎日本ではよく、正論が通らないと言われますが、自分自身の歩みを顧みると、最初は「反発」が強く、絶対に変えることができないと周囲から言われていたことも、問題を指摘し続けていると最終的には何かの拍子で正論が通った、という不思議な現象を何回も体験してきました。よく考えてみると「反発」が強ければ強いほど、そのような現象が起こったような気がしないでもないのです。(p.4)

⚫︎イギリスでは、次のようなことわざが古くから伝えられています。
Sticks and stones may break my bones, but words will never harm me.
「石や枝を投げられたら骨が折れるかもしれないけれど、言葉にはその力はない」。これは要するに、なんと言われても手を出したり過剰に反応したりすることなく、意見として冷静に受け止めるべきである。そのうえで、その意見を受け入れるかどうかは自分で決めることが大切であり、何か反対意見を言われただけで、心や態度を変えてはならないという教えなのです。(p.13)

⚫︎観光立国の4条件「気候」「自然」「文化」「食事」(p.57)

▲日本人の多くは、「観光立国」を目指すうえで必要な「気候」「自然」「文化」「食事」という4つの要素ではない他の何かを、外国人観光客に訴えることのできるセールスポイントだと思い違いをしている。たとえば、星野リゾートのホームページには次のようにある。
 観光大国の3条件である「国の知名度」「交通アクセス」「治安のよさ」という条件を十分に備えている日本の観光産業は、今後ますますその規模を拡大していくでしょう
 これは非常に危うい分析で、この3条件は「ないよりはあったほうがよいという程度の強み」であり、絶対不可欠な条件ではない。(p.76)

▲「お・も・て・な・し」のような話し方は欧州では相手を見下している態度ととられる。また、「日本国内では絶賛された」というクリステルのコメントは、「おもてなし」を受ける客の立場ではなく「おもてなし」をする身内からの立場であり、客を重視していない。(p.103)

⚫︎「郷に従え」という発想は、客側やよそからやってくる人が、自らすすんで心得るべき教えであって、ホスト側から強制されるものではなのです。(p.110)

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『帳簿の世界史』

『帳簿の世界史』
ジェイコブ ソール (著), 村井 章子 (翻訳)
文藝春秋、2015/4/8、¥2,106(L)

タイトル通り、帳簿がどのように生まれ、扱われてきたかの歴史。中世のイタリアで生まれた複式簿記が、フェイレンツェの発展を生み、ないがしろにしたことで衰退した。スペインは莫大な収入がありながら、複式簿記をつかいこなせず、支出の管理ができないために衰退した。フランス革命は国家の会計を複式簿記によって明らかにしたことで、民衆の怒りをかって起こった。現代においては、会計は複雑になりすぎて管理できず、エンロンなどの不祥事が絶えない。

といった、歴史の出来事を会計の視点から解き明かしている。大変面白く読んだ。

⚫︎「権力とは財布を握っていることだ」。アメリカ建国の父たちの一人、ハミルトンはこう喝破した。(p.245)

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『ホテルジューシー』

『ホテルジューシー』
坂木 司
角川文庫、2010/9/25、¥648(BO360)

『シンデレラ・ティース』と対になる物語。親友のヒロちゃんこと柿生浩美とサキこと叶咲子は、夏休みのバイトを何にしようか相談する。サキは親戚の勤める歯科クリニックに行くことになり。ヒロちゃんは、石垣島のプチホテルでバイトすることに決める。着いてしばらくすると、オーナーに頼まれて沖縄のホテルジューシーに行くことになる。そこでは仕事をまるでしないオーナー代理の他、個性的な面々が待ち受けていた。ホテルジューシーでのバイトを通じて、大人になっていく一夏の物語。

典型的な青春小説風で、甘酸っぱい思いをしながら読んだ。

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『ハートブレイク・レストラン』

『ハートブレイク・レストラン』
松尾 由美
光文社文庫、2008/7/10、¥596(ローソン慶応病院)

入院中退屈で、病院内のローソンで適当に見繕って買った。

あまり華やかでない雰囲気のファミリーレストランで、フリーライターの寺坂真以はいつも仕事をしている。あるとき、端のテーブルに品の良いおばあちゃんが座っているのを見るが、実は彼女は以前この土地で暮らしていた幽霊だった。真以の周りに起こるちょっとした事件の謎を、おばあちゃんはいとも鮮やかに次々と解いていく。

連作ミステリーと表紙に描かれている通り、日常の謎をおばあちゃんが解いていく、という体裁の本で、決して緻密で内容の濃い本格ミステリーではないが、暇つぶしに読むにはよかった。

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『書店ガール 3』

『書店ガール 3』
碧野 圭、PHP文芸文庫、2014/5/10、¥713(L)

出産を終え職場復帰した亜紀は、子育てと慣れない経済書売り場での仕事で一杯一杯の日々。吉祥寺店の支店長だけでなく、東日本全域の管理を任された理子は、仙台の老舗書店のリニューアルにかかりきりになっている。亜紀は次第に仕事に自信を失うが、理子は忙しくなかなか相談できない。理子は、仙台の仕事をするうちに、現地の人々の思いを受け止め、吉祥寺店で震災イベントを仕掛けることを提案する。亜紀に憧れているアルバイト愛奈の協力を得て、亜紀や理子、そして吉祥寺店のみならず他のグループ店舗や、他業種の店も引き込んで、イベントは大成功する。亜紀は、現場だけが仕事ではないと悟り、本部への異動を了解する。

いつもそうなのだが、著者のリズムと自分のリズムが少しずれていて、完全に小説の世界に入り込むことができないのが残念。ただ、内容は面白く、一気に読むことができた。


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『異人館画廊 贋作師とまぼろしの絵』

『異人館画廊 贋作師とまぼろしの絵』
谷 瑞恵
集英社文庫、2015/1/20、¥605(L)

ブロンズィーノ「死の舞踏」の贋作の噂が出回り、図像学を学んだ千景は、幼なじみの透磨とともに、その出元と思われる画廊プラチナミューズの展覧会に潜入する。調査を進めるうち、画家三堂の自殺した弟子相原敬子が描いていたことがわかる。相原が描いた贋作は、実は贋作ではなく自らの技術で描いた真作であったが、誤解した周囲が様々な事件を引き起こす。

それなりに楽しめる。

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『大局観』

『大局観』
出口 治明
日経ビジネス人文庫、2015/8/4、¥842(丸善日本橋)

60歳を過ぎてライフネット生命を設立した著者による経営感覚の本。タテ(歴史)とヨコ(世界)の状況と今を比較して物事を考えよ、など参考になるところが多かった。

●思うままにはならない人生だからこそ、「風が吹いたときに凧を揚げる」、そのための準備はしておくべき。(p.6)

☆ライフネットを起業した時の心持ち。

●「歴史に残る偉業を成し遂げた人」に共通する特徴は何だと思いますか?
 それは、フランス革命時におけるナポレオンのように、「風が吹いてきたときにそれを逃さず、瞬時に凧を上げることのできる体力と知力と勇気、それと強運をもっていること」です。こういうことも、偉人と呼ばれる人たちの伝記を何冊も読んでいると自然とわかってきます。(pp.103-104)

●さまざまな相手との会食は、「限られた時間で多様なインプットをしたい」という私の気持ちの表れだったのでしょう。
「合いたいと思った人にはすぐに会いにいく」食事やお酒に誘われたらだれであろうと断らない」「呼ばれたらどこにでも行く」というのが今も私のモットーであり、皆さんにもお薦めしたいことです。(p.109)

▲人間は動物である、というところから考える。

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『シンデレラ・ティース』

『シンデレラ・ティース』
坂木司
光文社文庫、2009/4/9、¥617(L)

大学二年の夏、バイトを探していたサキこと叶咲子は、歯医者がきらいなサキは、母親に騙されて叔父の勤める歯科クリニックの受付をすることになる。優しいクリニックの人や色々な患者に接するうち、次第に歯医者に対する考えを改めたサキは、歯科技工士の四谷と付き合うようになり、最後には自分もずっと避けていた歯科治療を受けることを決意する。

サキの親友ヒロちゃんが主人公の『ホテルジューシー』と対になった物語で、ミステリー風味を適度に混ぜながらサキの成長を描いていて、安心して読み進められた。ただ、せっかく付き合うようになった四谷がドイツ留学で二年不在にするというのは、どう考えても自然消滅のパターンだと思うので、そこだけはちょっとどうかと思った。

▲成瀬先生は三本の指を立てて突きつける。
「ナンパの注意点、三ケ条!共感、去り際、情報。これが揃ったら危ないからね」
一つ、と先生は人差し指を示した。
「人と人とがつながるには、どんな小さなことでも声に出して共感を煽っていけばせいこうしやすいんだ。なにも話題がなくたって、雨ですね、ぬれちゃいましたね、で充分。話題は何だっていい」
「その二。去り際がやけにあっさりしていること。でもそれには条件があって、その三の情報を得ていること、というのが大前提にある。つまり、サキちゃんが品川クリニックに勤めているということを知ったからこそ、相手はあっさりと別れたわけだ」
 他にもおおまかな会社の場所とか、よく行く店とか、聞いておけば出会う確率の高い情報ってのを初回に聞いておくわけ。そうすれば、運命の再開ってやつをやりやすくなる。(pp.156-157)

☆ナンパだけでなく、色々な場面で役立ちそうなノウハウ。

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『東京タワー―オカンとボクと、時々、オトン』

『東京タワー―オカンとボクと、時々、オトン』
リリー・フランキー
新潮文庫、2010/6/29、¥810(BO400)

リリー・フランキーの自叙伝。母との関わりを中心に、幼少期から母が亡くなるまでを描く。感情豊かに、自らがマザコンであることを隠さずに思いの丈をぶつけた、といった趣の本。

両親との関係をあらためて考えさせられた。


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『あしたから出版社』

『あしたから出版社』
島田 潤一郎
晶文社、2014/6/27、¥1,620(L)

20代にバイト生活をしていた島田は、仲の良い従兄の死をきっかけに、出版社を始める。一人出版社である夏葉社の設立と、出版した本にまつわる話をまとめた自叙伝のような本。

本を作ることへの真摯な姿勢が伝わる一冊。

●求めているものが見つからない時は、「半径三メートル」のなかで探すのがいいと、かつて、宮崎駿監督がテレビでいっていた。ぼくは、その言葉が好きだった。
 いいアイディアがなにも思いつかない時は、自分がこれまで関わってきたもの、夢中になっていたものを、思い出すことの方がいい。それ以外のものは、たいてい付け焼き刃にしかならない。これは、小説を書くときに、恩師が教えてくれたことでもある。(p.64)

●「なにをやりたいかは、それほど重要じゃないんだよ」
 むかし、行きつけの床屋のお兄さんがそういっていた。
「それよりも、だれと仕事をするかの方がよっぽど重要なんだ」
 仕事とは何だろう、と考えるたびに、ぼくは、そのお兄さんの言葉を思いだす。[略]
「つまらないやつと仕事を一緒にしていると、共倒れになっちゃうんだよ。ひとりでできるはずの仕事もできなくなっちゃうんだよ」[略]
「本当に好きな人とだったら、焼き芋を売っていても楽しいはずだよ」(p.75)


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