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『ジャイロスコープ』

『ジャイロスコープ』
伊坂 幸太郎
新潮文庫、2015/6/26、¥594(吉田書店大島)

今まで読んだことのない作者を開拓してくて手に取った。初伊坂幸太郎。デビューしてから15年の間に発表された短編をまとめた作品集だが、最後の一篇でまとまりがつくようになっている。

本書には黄色のスピンがついていて、最近の文庫にはついていない本が多いから、うれしくなった。伊坂の作風は本書だけではつかめないが、本書中「彗星さんたち」のスタッフたちに向けたまなざしが暖かく、おそらく他の作品も面白いのだろうと思った。

1.浜田青年ホントスカ:蝦蟇倉市にやってきた浜田青年は、スーパーホイホイの駐車場で相談屋を営む稲垣さんに助手を頼まれる。一週間後、実は本当の浜田青年はすでにこの世になく、ここにいる浜田青年は殺し屋で、その事情を知っていた稲垣さんも殺しにやってきたのだった。

 最初はほんわかしたいい話なのかと思ったら、途中から雲行きが怪しくなり、あれよあれよというまに殺人の話になってしまい、びっくり。

2.ギア:なぜか荒地になってしまった日本で、ワーゲンワゴンに乗り合わせた蓬田は、運転手からセミンゴという不思議な生き物の話を聞く。次第にそれが日本をこんな風に破壊したのだとわかってきたそのとき、ワゴンの後ろからセミンゴの大群が迫る。

 超現実的な幻想小説風で、まったく事情がわからないうちに追いつめられる緊迫感のある一篇。

3.二月上旬から三月上旬:学校になじめない慈郎は、坂本ジョンという他学区に住む少年と友達になる。ジョンは振り込め詐欺のようなことをしており、仕返しをされる際、慈郎も瀕死の重傷を負う。本篇中では毎日の日記風だが、実は12年おきに起こったことが描かれており、最後の日には慈郎は死の床についている。

 これも幻想的な小説で、主人公が統合失調症なのでは、と思わせる描写が続き、最後までつじつまは合っているようなあっていないような一篇。

4.if:バスジャック犯にバスを降りるよう命じられ、女性客を残したまま降りたことをずっと後悔していた山本は、20年後にその後悔を取り戻すチャンスを得る。

 時間の繰り返しと思わせて、20年後とわかる設定が面白い一篇。

5.一人では無理がある:クリスマスプレゼントを恵まれない子供に配る会社があって、トナカイたちを操ってクリスマスの夜配る仕事をしている。おっちょこちょいの松田は、いつも配る物を間違えるが、実はその間違えた物こそその子供に必要な物だ、という特殊な能力を持ってる。ストーカーに教われた主婦は、間違えて配達された鉄板を借りて、ストーカーを撃退する。

 普通にいい話。

6.彗星さんたち:新幹線の清掃スタッフの人生を見つめた一篇。一本の新幹線に残された物や、スタッフが出会った乗客たちが、実は脳溢血で倒れ入院している女性スタッフの人生そのものなのではないか、という妄想を彼らが話し合う。

 パウエル元国務長官の言葉が多く引用され、人生のいい話、といった趣。本作の中で一番面白かった。

7.後ろの声がうるさい:東京行きの新幹線はやぶさに乗った私は後ろの席で交わされる会話に耳を傾ける。実は一人は相談屋の稲垣らしき人物で、もう一人は会うことを許されない息子だった。そして稲垣らしき男は、小学生の頃どこから届いたかわからないクリスマスプレゼントを受け取っていた。入院から戻った清掃スタッフ鶴田は、稲垣の残した手紙を読み、遺失物として処理する。

 細かく見れば、全ての短編に結びつくのだろうけれど、さらっと読んでしまったので、すべてのつながりはわからなかった。ただ、うまくまとめたな、という印象。

●「ある結論が出て、取りまとめる直前に、細かい追加条件を付け足せば、たいがい呑んでもらえるんですよ」と後で稲垣さんが教えてくれた。(浜田青年ホントスカ、p.27)

●鶴田さんはそこで顔を引き締めた。「ねえ、こういう言葉知ってる?」
「どういう」
「『常にベストをつくせ。見る人は見ている』って」[略] 「これね、パウエル国務長官の言葉」鶴田さんは少し顔のこわばりを緩めた。(彗星さんたち、p.207)

●[鶴田さんが謳っていたのは、メリーポピンズの歌で]「ちょっと砂糖があるだけで、苦い薬も呑めるのよ。どんな花にも蜜がある、楽しみ方を見つければ、つらい仕事も楽しくなるの」とそういった内容だ。(彗星さんたち、p.223)

●冷静であれ、親切であれ。(パウエル長官の言葉、彗星さんたち、p.234)

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