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『書店ガール』

『書店ガール』
碧野 圭
PHP文芸文庫、2012/3/29、¥741(丸善日本橋)

テレビドラマがいろいろな意味で話題になっていたので買ってみた。

中堅書店チェーンの吉祥寺店副店長の理子。部下でお嬢様の亜紀とそりが合わずぶつかってばかりいる。そんな中前店長が異動になり理子は店長に昇格するが、告げられたのは半年後の閉店までのつなぎという屈辱的な役目だった。損益分岐点まで売上を増加させることを条件に店舗存続を社長に掛け合った理子は、店に残った店員たちと絶望的な戦いを始める。

女性作家ということと著者自身が女性主人公を描きたい、という意向を持っていたためか、途中までは主人公二人を巡る女性特有の人間関係の描写に終始していてあまりうまくテンポに乗れなかった。が、店長に昇格した理子が契約社員店員三田からのきつい一言で目覚め、店舗存続のために立ち上がるあたりから話が流れ始め、最後まで面白く読むことができた。

本書を読んでいて、「どこかで読んだ話だな」という既視感がずっとあったが、舞台が書店というだけで、反目していた主人公二人が協力して、、、という同じようなストーリーの話は色々あるので、そのためかもしれない。テレビドラマ化にあたって、亜紀は一見単純そうで非常に演ずるのが難しい役柄なので、AKBにやらせたのは確かに冒険だったと思う。

●[母親が余命いくばくもなくなり、父親から治療費のため私学進学を諦めるよう言われ、落ち込んだ理子が、近所の一伸堂書店に来ると]
 その日も、店主はいつものように穏やかに迎えてくれた。だけど、いつもと違うのは、珍しく自分から本を薦めてくれたのだ。
『これ、面白かったから、読んでみない?』
 当時、評判になっていた吉本ばななの『キッチン』だった。たぶん、いつもなら買わないタイプの本田。想定が少女趣味な気がしたし、すごく売れているという事実がなんだか嫌だった。若かったこともあって、当時はベストセラーになる本に対して反発を感じていた。ベストセラーになるということは、普段本を買わない人が好む本ということだから、自分のような本好きとは相容れないものだ、と思っていたのだ。
 それでもその本を買って返ったのは、たまたま誕生祝に叔母にもらった図書券五千円分が手つかずで残っていたことと、そんな状況だったから、いろんなことがどうでもいいや、と思えたのだ。おじさんが勧めるんだから、なんでもいい。
 だけど、それを読んで泣いた。
 家族を喪うことの悲しみ、孤独。癒しがたい空白感。絶望と、再生に向かう意志。
 そこに書かれていることは、これから自分に降り掛かることだと思えた。作り話だし、どこか少女漫画のようだと思ったけれど、臆面もなく泣けた。母の病気の話を聞いた時は泣けなかった。ことの深刻さに、ショックで泣くこともできなかったのだ。だが小説なら泣ける。泣いてないて一晩中泣き明かして、そうしてすっきりした。泣いて気持ちを吐き出したことで、前に進める気持ちがわいてきた。(pp.252-253)

☆単行本出版時にはなかった部分らしいが、この部分こそが本作の白眉ではないか。理子の本に対する思い、本が人に語りかける力、癒す力をこれほど雄弁に語るこの部分だけで、本書を読む価値がある。

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