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『和僑 農民、やくざ、風俗嬢。中国の夕闇に住む日本人』

『和僑 農民、やくざ、風俗嬢。中国の夕闇に住む日本人』
安田峰俊
角川書店、2012/12/15、¥1,890(L)

2ちゃんねるのVIP板に書き込みをした中国の少数民族イ族の女性と結婚して雲南省の奥地に住む日本人、マカオのサウナに出稼ぎする風俗嬢
、日本企業を守るために中国で組を作った日本人ヤクザ、中国国内の人さらいや住民同士の殺し合い乱闘など、いわゆるエリートで派遣されたのではない土着の日本人や中国事情を取り上げたノンフィクション。

上辺だけではわからない中国の実情や、そこに飛び込んだ日本人たちの様子が詳しく描かれ、大変興味深く読んだ。

●「和僑」とは、今世紀になってから日本人の間で作られた造語と言っていい。
 もともとは、中国人の奥さんをもらったミュージシャンのファンキー末吉が、在外華人を意味する「華僑」をもじって発明した言葉らしい。2000年代半ばに、中国の広東省や香港に在住する日本人の起業家たちが「和僑会」なる異業種交流会的なビジネスサークルを設立し、アジアの各地に支部を作って組織の規模を拡大したことで、広く社会的に認知されるようになった。(p.26)

●そもそも、一般人の女性が風俗店で働くことは、現代の日本では特殊な話ではない。
 通説では、現代の日本では性風俗産業に従事している女性の数は30万人程度だと言う話がある。日本の20〜30代の女性人口は約1500万人なので、単純に見積もれば、日本の若い女性の50人に一人が性風俗産業で働いている計算だ。(pp.73-74)

●「海外だと絶対にスキンをつけて行為をしますし、キスをしなくてもいい場合すらある。病気のリスクは、実は日本よりもずっと低いと思いますよ」
 ヒカルさんによると、マカオのサウナではマッサージ嬢が自分の身体を使ってお客の全身を使ってお客の全身を洗い、その後に性行為をおこなう。日本の性風俗と比較すると体液の接触が格段に少ないため、国内での仕事よりもずっと安心感を覚えるという。(p.124)

●中国語の俗語で、売春婦のことを「鶏(ji1)」と呼ぶ。これは発音が同じ「妓(ji4)」という感じを書き換えたものらしく、売春婦の元締めを指す「鶏頭」や、ストリート•ガールを指す「野鶏(野良ニワトリ)」など、派生した語彙も多い。なかには、売春窟を指す「鶏窩(ニワトリの巣)」という表現もある。(p.129)

●[日本人向けに開業している菅村医師]「こう言ってはなんだけれど、日本でワーキングプらやフリーターだった人は、上海に来てもやっぱりワーキングプアで不安定なんだ。でも、それでも上海でなら、日本人である限りはなんとなく生活できちゃうのも確かだし、一概に悪いとは言い切れないけどね。日本でも海外でも『通用しない人』だったら、せめて海外で暮らす方が人生のストレスは少ないかもしれないしさ」(p.160)

●駐在員たちは、自分の子どもを日本人学校に通わせている。つまり、日本的な礼儀と集団生活の作法をわきまえた、日本の社会でちゃんと通用する「日本人」を再生産しているということだ。「これからは国際化の時代」という煽り言葉に乗せられた両親の意向でインターナショナルスクールに入れられ、帰属先不明のアイデンティティと微妙な日本語能力を持つ「国際人」にされてしまうよりは、少なくとも確実に「日本人」になれるぶんだけ、子ども自身にとっても幸せな教育方針かもしれない。(pp.188-189)

●日中戦争では、当時の同時代的な価値観では「感心な日本人」や「尊敬すべき日本人」だった人たちが、日本の進路を大きく誤らせた。一方で、独にも薬にもならないただのサラリーマンたちは、中国にさっぱり関心がなく、日中間の政治問題に何の影響力も解決力も持たなかったかわりに、少なくとも日本や中国にマイナスの作用をもたらしもしなかった。(p.196)

●中国社会に積極的に飛びこむことを過度に称賛する、自称「中国通」の胡散臭い識者や、ビジネス分野のメディア関係者の主張の方が、よっぽどその言動をしっかり疑ってかかるべき対象なのかもしれないのである。(p.197)

●日本における「人権擁護」や「差別撤廃」といった言葉は、ある意図に基づいて恣意的に濫用されれば、国家の法律法規すらも公然と踏みにじれる凶悪な武器に転化する。
 金嬉老とは、そんな武器の効果を最大限に熟知した、したたかな犯罪者だったのではないか。(pp.206-207)

●金嬉老は、往年の日本の進歩的知識人の間における絶対的正義、人権教のご本尊様だった。生けるカミサマである以上、彼には信者からのお賽銭がたくさん集まったのである。(p.208)

●彼[義龍老人] の上海での組織「義龍会」は、2006年ごろに成立した。上海に進出した日系企業の経営者たちからの要請の結果である。特に関西地方の呉服店にルーツを持つ某大手有名百貨店の関係者や、上海市内に展開する日系スーパーマーケットの社長といった人々が、非常に積極的に団体の設立を希望してきた。(p.219)

●[イ族と結婚した高原博明さん] 「親しい協力者がいたから[誘拐されて雑技団に入れられた少女の脱出援助が] 可能だったって感じですね。自分ひとりじゃ絶対にできないですよ」
 中国でトラブルに遭ったときは、とにかく多数の現地人を抱き込んで自分の味方につけ、彼らのネットワークを利用する形で解決を図るとよい。
 彼は過去の自分自身の経験から、そんな中国の民間社会のルールを熟知していた。(p.288)

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