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『(株)貧困大国アメリカ』

『(株)貧困大国アメリカ』
堤未果
岩波新書、2013/6/28、¥798(有隣堂亀戸)

「貧困大国アメリカ」シリーズ完結編。コーポラティズムに飲み込まれたアメリカでは1%の富裕層と99%の貧困層への二極化が急速に進行している。民主・共和問わずアメリカ政府さえ金の力で自由に動かせるようになった多国籍企業がアメリカを食い尽くしたあと次に狙うのはTPPを枠組みにした日本など他国経済。

本シリーズ3冊の構成は単純で、
1) アメリカの二極化が進み貧困層が拡大している
2) それを推進しているのは多国籍企業で、政府も取り込まれている
3) 彼らに反対しようとするとことごとくつぶされ、収奪の構図を変えるのは絶望的に見える
4) 草の根運動により彼らに対抗していく動きがあり、それが希望である
これを繰り返している。ストーリー構成として非常にうまくできているので、何も考えずに読むと本当に納得させられてしまう。ルポを書くときの教科書的構成なのかもしれない。

前書同様インタビューを重ね、緻密に論を組み立てていく手法は、最近の軽薄な新書には珍しく内容の濃い本になっている。ただ、そもそも本書で取り上げているインタビュー対象者に偏りがあることと、引用内容をうまく切り貼りしているので、内容に絶対の信頼を置くことはできない。その点を留保して読めば大変良い本だと思う。

●SNAP [Supplemental Nutrition Assositance Program = 補助的栄養支援プログラム] 受給者は年々増加、2012年8月31日のUSDA(農務省)発表では、約4667万373人と過去最高に達した。1970年には国民の50人に1人だったのが、今では7人に1人がSNAPに依存していることになる。(p.3)

☆低所得者でも受給できるため、受給者を積極的に増やすことで食品会社や小売り大手が潤う一方、自治体の財政は悪化の一途をたどる。

●通商交渉委員会のスタッフディレクター、ジェイムス・ホワイトは、この状況をこう語る。
「国民の生活を大きく左右する通商交渉分野のトップ議員が、わざわざ法案まで出さなければならないほどすっかり蚊帳の外に置かれている。小野異常な状況が、今のアメリカをよく表していると言えるでしょう。TPP交渉一つとっても、日本を含む各国政府が交渉を進めている相手が、かつてのような国家としてのアメリカだと思わない方がいい。今政府の後ろにいるのは、もっとずっと大きな力を持った、顔の見えない集団なのです」(p.17)

●各国の農民たちは、毎年モンサントを筆頭に、世界四大多国籍アグリビジネスから種子を買うしか選択肢が与えられていない。トウモロコシや米、大豆、小麦といった、人類にとっての主要作物がたった四社の手に握られているのだ。
「ターミネーター種子 [発芽した段階で枯れる種子]」の特許成立は、世界のパワーバランスを大きく揺さぶることになるだろう。種子が手に入らなくなればその国の自給率はゼロになるからだ。アグリビジネスと共にこの政策を進めて来たアメリカ政府もまた、世界最強の軍事力に並ぶ、外交交渉の強力な武器を手に入れた。
 アールバッツ元農務長官は、外交における食の重要性をこう語っている。
「食料はアメリカが持つ外交上の強力な手段です。とりわけ、食料を自給できない国に対しては有効でしょう。脅威を与えたいときは、ただ穀物の輸出を止めるだけで良いのですから」(p.156)

☆アールバッツはニクソン政権時の長官なので、本書の文脈とは違うところからの引用であることに注意。彼の元発言は1999年「日本に脅威を与えたいときは」。

●[TPPが] 実施されればそれぞれの国が持つ規制や独自経済政策能力と言った主権が制限され、投資家と多国籍企業は完全に法治国家を超えた強力な力を持つことになる。(pp.165-166)

☆米韓FTAで丸裸にされた韓国の二の舞が危惧される。

●かくして2005年12月。人口10万人、全米初の「完全民間経営自治体サンディ・スプリングス」が誕生する。政府ではなく民間企業が運営する自治体。(p.200)

☆ハリケーンカトリーナの後、貧困地域への公共サービス税負担を嫌った富裕層が自分たちだけのために作った町。

●「アメリカという国を好きなようにしたければ、働きかけるべきは大統領でも上下院でもない。最短の道は州議会だ」
『ネイション』誌のワシントン特派員で、メディア改革推進団体「フリープレス」創始者のジョン・ニコラスは断言する。[略] 50州からなる合衆国は、それぞれの州に独自の法律と自治権が与えられている。[略] 「つまり」とニコラスは言う。「州を制する者は、国民生活の隅々まで及ぶ影響力を手にできるということです」(p.206)

☆アメリカの政治構造。

●企業によるイメージ戦略は、美しい名称をつけることによって、公益と逆行する法律内容を国民の目から隠している。たとえば2014年に施行される<オバマ・ケア(医療保険適正価格法)>は、病歴に関わらず民間医療保険への加入を義務づけるため、適正価格どころか月々の医療保険料を今より最大3倍値上がりさせてしまう。IRS(国税庁)の試算では、平均的な4人家族の場合、最も安い保険料は2万ドル(約200万円)、加入しなければ強制的に銀行口座から罰金が引き落とされるという。(p.274)

☆判断材料がないので何とも言えないが、本当に2万ドルなのかちょっと信じられない。かなり偏った試算のような気がする。

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