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『国家と神とマルクス―「自由主義的保守主義者」かく語りき』

『国家と神とマルクス―「自由主義的保守主義者」かく語りき』
佐藤優
太陽企画出版、2007/04/18、¥1,680(L)

某2ちゃんねるで良書と書かれていたので。

まだ鈴木宗男事件に関連した裁判の最中まとめられた本。それまでに雑誌等に掲載された文章をまとめたもので、右翼思想史『月刊日本』左翼思想史『情況』など左右両極端なものが一冊に同居していながら違和感を感じさせない不思議な本。
「絶対的なものはある、ただし、それは複数ある」という信念を持つ著者が、それぞれ絶対と信じる国家・神・マルクスについて語っている。

相変わらず重厚な読書量に裏打ちされた筆致で、圧倒されながら読んだ。この頃の佐藤は、柄谷行人、廣松渉、宇野弘蔵を多く根拠にしているように見える。

●[佐藤] それはマスコミ論の本質に関わることだと思うんです。マスコミは媒体なんですよ。読者に関心のあるものなら載せる。もとの話をちょっと拡大しちゃうことはあるが、意図的に誤報や虚報を載せる体質は日本のマスコミにはないと思います。[略] マスコミにそういう[僕や鈴木さんのバッシング]情報を流した人がいて、しかも役所が流している。[略] ここに深刻な問題がある。(p.31)

☆最近の大新聞の虚報・誤報連発を見ると、佐藤のマスコミ観については同意しづらい。

●マルクス主義哲学者の廣松渉さんが「本は読まれなければインクのシミに過ぎない」とすごくシビアなことを言っていました。だから、読まれるような本を作らなくてはいけない。(p.42)

☆そうあってほしい。

●堀江[貴文] 氏の [天皇制を廃止し、大統領制にするという] 国体変更に関する言説を容認する雰囲気が現 [小泉] 政権にある。小泉自民党圧勝の陰で『共和制への誘惑』という種がまかれている(「神皇正統記から現代を読む」(中)堀江貴文の世界観と国体崩壊の危機・『正論』2005年12月号)と警鐘を鳴らした。
 大統領型共和制とはポピュリズムの極致で、権力と権威が一体化することだ。その場合、共和国となった日本は、これまで存在した日本とは国体(国柄)を根本的に異にする国になる。堀江氏は無自覚的に国体変更を伴う革命を提唱し、それに日本国家の生存本能が否を唱えたというのが今回の[堀江に対する] 国策捜査の深淵だと筆者は考える。
 しかし、この国策捜査は同時に日本の危機的状況を反映している。なぜなら国体護持は、司法官僚を含む官僚に委ねるべき性格の問題ではなく、国民の選挙によって選ばれた国権の最高機関の構成員である国会議員が第一義的に担うべき問題だからだ。(pp.60-61)

☆権力と権威が一致しないのが日本の特徴という佐藤の指摘は説得力がある。

●そこで私はこの本に解説をつけ、『日米開戦の真実ー大川周明著「米英東亜侵略史」を読み解く』(小学館、2006年)を上梓しました。幸い半年で四刷、発行部数も45000部で、このカテゴリーの本ではベストセラーといってもよいと思います。

☆ぜひ読みたい本。

●日本はこの風船爆弾を9300発ぐらい送りました。しかし、GHQの太平洋戦争史によるとアメリカに到着したのは二つしかないということになっているのです。これは大嘘で、実際は1000個近くが着いているわけです。しかもアメリカはこの風船爆弾に対して大変なおそれをなしていたわけなのです。どうしてかというと、この風船爆弾に生物・化学兵器がつけられたならば、大変な危害がアメリカに及ぶと懸念したからです。(p.130)

☆歴史は勝者の歴史であることの例証。この指摘を見るまで、自分も風船爆弾は意味がなかったと思っていた。

●戦争に負けたあの状況の中で、誰もがこの敗戦という現実を直視したくない。そのときに、自分の責任ではなく誰かに騙されていたのだということは、とても受け入れやすい言説だと思うのです。そこのところをアメリカは上手く使いました。同時にアメリカがこのような言説を作る過程で、それに協力した日本の情報のプロたちがいたと私はにらんでいます。これはとても残念なことです。(p.131)

☆「原発の事故を直視したくない、だから自分の責任ではなく東電の責任にしてしまえ」という形で繰り返されている。

●[北畠親房の『神皇正統記』における] 「大日本者神國也」というテーゼで表される我々の国・日本では、権力と権威が一緒にならないという国体が保全されてきたし、いまも保全されているし、未来においても保全されていくのです。(p.145)

☆女性天皇論が共和制に結びつく可能性。

●ドイツでは総合大学には神学部がないといけないんです。神学部がないと単科大学になるんです。あると総合大学なんです。法学や経済学はもとより哲学も、我々神学徒から見れば「実学」なんです。これに対して神学は「虚学」なんですよ。虚学と実学があってはじめて総合的な学問になるというのが西欧(カトリック・プロテスタント文化圏)の伝統的発想なんですよ。(p.156)

☆では、福沢先生の言う「虚学」「実学」の区分けはどこにあるのか?

●私や鈴木宗男さんがやられた北方領土問題についても、客観的に歴史データを追跡していただければ明白なんだけど、1945年当時、日本政府は歯舞群島と色丹島の二島返還に限りなく近い立場を取っていました。原喜美恵さんが、1994年にオーストラリア・キャンベラの国立文書館で、1946年に日本政府がGHQを通じてアメリカ政府に対して提出した国後島と択捉島はクリル諸島(千島列島)の一部であるという英文報告書の写しを入手しました(詳しくは和田春樹『北方領土問題ー歴史と未来』朝日新聞社、1999年、pp.192-194を参照願います)。1951年のサンフランシスコ平和条約二条c項で日本政府はクリル諸島(千島列島)を放棄しているのですから、これでは、国後、択捉に対する領土要求ができなくなります。(pp.181-182)

☆1956年日ソ国交回復前には二島返還で手を打つ可能性もあると河野一郎農相が了承を得ていたが、冷戦下のアメリカの恫喝で四島返還に転換し、ナショナリズムを煽って統制が効かなくなったのが現状だ、との説明が続く。非常に説得力があり、なぜ二島返還論が突然出てきたように見えたのかの理由がわかった。他にもナショナリズムが操作不可能になる例をいくつかあげ、アンダーソン「想像の共同体」について疑問を呈している。

●佐藤 私は、日の丸、君が代は日本国家のシンボルとして大いに結婚と考えます。故に法制化には絶対反対です。なぜなら、法律で決めるものは法律で変えられるからです。日の丸や君が代を法制化するという発想自体が誤っていると考えます。国旗、国家というのは日本の伝統に属するもので、文化なのですから、それを法制化すること自体がカテゴリー違いなのです。こういう議論が国旗、国家法制化に対する一番有効な反対論になると思います。(pp.187-188)

☆面白い反対論。

▲潮匡人が憲法を改正せず、しかも一円の予算支出もせずに日本の防衛力増強のための三点セットを提示している。1) 集団的自衛権に関する内閣法制局の解釈を変更し、集団的自衛権を持っているし行使できるとする、2) 周辺事態法に言う、周辺地域に台湾海峡が含まれると明言する、3) 非核三原則の「持ち込ませない」という縛りについて、朝鮮半島有事の際には「持ち込み可」とする。(pp.194-195)

☆憲法改正せずにできること。

●靖国神社に付属する「遊就館」を韓国人や中国人がけしからんと非難するのは、彼らの現在持っている物語からすれば、当然、そうなるのでしょう。しかし、我々がその物語に付き合う必要はない。[略] ロシア人やイスラエル人は、各国家や各民族は固有の歴史や物語を持つ権利があり、それを巡る論争は不毛であると突き放した見方をしています。(p.211)

☆普通に同意できる。

●アメリカとヨーロッパの軋轢については、トム・リードの『ヨーロッパの正体』(新潮社)がよく描いています。(p.219)

☆「ヨーロッパ合衆国」が暗黙の内に温存した人種理論が近いうちに火を噴く、という佐藤の予言は、ユーロ危機として現実となりつつある。


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