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『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』

『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』
遠藤誉
朝日新聞出版、2012/3/16、¥1,785(丸善日本橋)

2012年10年、中国の胡錦涛体制は10年の任期を終え、習近平体制に移行する。本書は全国13億人を動かす中国共産党政治局常務委員の9人に焦点を当て、次期常務委員の選出の裏側にある熾烈な政治闘争について非常に詳細に述べる。中国の政治闘争は単に次期2012年の常務委員を巡るものだけではなく、次々期2022年の国家主席を巡ってもすでに始まっている、という説明は、中国がいかに長期戦略を重視するかという例で、日本にはなかなか真似できない。

著者は旧満州の長春市で生まれ、八路軍の長期包囲による飢餓から生還し、現在でも中国高官とつながりのある人物。それだけにその分析は的確で説得力がある。朝日から出版されているだけあって、微妙に中国に甘い部分が見られるが、それを理解した上で、時節柄大変興味深く読んだ。

●勝てないときには妥協する以外にない。中国には
「达不到最善,就求次善,不可能僵持,也不可能摊牌」
という処世術がある。つまり、
「最善に達することができなかった場合は次善の策を選ぶ。相対峙して譲らなかったり、手の内を明らかにしたりはしない」
という意味だ。「摊牌」は「手の内を見せる」という意味と共に、トランプなどのお持ち札を並べて「一か八かの勝負をする」という意味もある。それはしないのが中国政治の常套手段だ。
 だからみんな能面か蝋人形のような「不動」の表情を保っている。感情を表に出した者が負けとなる。(pp.76-77)

☆政治闘争だけでなく、普段の態度としても参考になる。つい内心が表に出てしまうから。

▲中国は特に1989年天安門事件以降、「党や国家を批判すること以外なら、何をしても自由」と人民に自由を与えたため、「二奶」[お二号さん] や麻薬常習者の増加を招いた。(p.163あたり)

☆強さの裏には弱さがある。

●概数として全中国2000万の売春婦の総収入は年平均5000億人民元であるという。中国の国内総生産の6%に達するというから、すさまじいビジネス界と言える。しかも、その周辺産業をも含めると総額1兆元(約13兆円)になるとのこと。おそらく世界一の「春院」ではないかと、ネットにはある。(p.173)

☆日本の風俗産業市場規模は2011年で約5兆6千億円。GDPは概ね同じと考えれば、いかに中国の市場規模が大きいかわかる。

●第二の天安門事件を惹起すれば、その時点で社会主義国家・中国は崩壊することを、中国の誰もが知っている。(p222)

☆意外な指摘。

●江沢民の後ろ盾である薄一波は、江沢民に北京閥を落とす策略を教え込んだと聞く。その策略とは
「周りを包囲して攻め落とせ」ということである。
 これは、国共内戦時における毛沢東の戦略に基づいている。武器を持たない毛沢東軍率いる中国共産党軍(当時の俗称、八路軍)は、国民党が占拠する長春を包囲して何十万もの一般庶民を飢餓に追い込む形で、最終標的とする国民党軍を落とした。筆者はそのとき長春で食糧封鎖を受けた側なので、中国共産党指導層のこの手の打ちようが、手に取るように見えてくる。(pp.282-283)

●社会主義思想による引き締めの目的の一つは、「団派の強化」にあるのではないかということである。(p.285)

☆共産党青年団という共通の思想を持つ派閥の強化を目的とし、太子党に対し優位に立つという長期戦略。日本の政治闘争など子どもの遊びに等しい。

●そもそも日本と仲良くした中国の国家指導層はみな、非常に哀れな最期を迎えている。
 天安門事件で失脚した趙紫陽(元国務院総理、中共中央総書記)もその前に降ろされた胡耀邦(元中共中央総書記)も同じだ。二人とも非常に親日的な指導者だった。胡錦涛も前述のように、親日を掲げようとしたが「売国奴」とまで罵られ、非常に慎重になっていったくらい。
 層でなくても日本との間にはさまざまな軋轢がある。領土問題、教科書問題、靖国神社参拝問題等、枚挙にいとまがない。
 親日は中国では「鬼門」なのである。天皇に会えたことが[次期総書記選びに] 有利になる要素はない。(pp.323-324)

☆2009年の習近平常務委員の天皇訪問についての説明。中国の指導者は非常に難しい舵取りを迫られており、表面だけで判断はできないということ。

●アメリカは、中国と電撃友好握手を交わしたように、今度は北朝鮮と電撃的な握手を交わす可能性がなくはないのである。この場合、核交渉は棚上げとなり、6か国協議で主導権を握っていた中国は、梯子をいきなり外される。
 その「懐柔」を、中国は最も恐れている。そうなってしまったら、中国は北朝鮮、韓国、日本と、親米諸国に囲まれることになるからだ。(p.332)

☆自分では気づかなかった、しかし大変鋭い指摘。

●チャイナ・ナインの中にどんなに激しい党内派閥があったとしても、全員が100%一致していることが一つだけある。それは絶対に社会主義国家としての中国を崩壊させてはならないという鉄の理念である。戦争などを仕掛けて、中国の誰が得をするのか。
 日本に「爆買い」に来る中国の富裕層の顔を見るといい。金持ちであることに酔いしれ、自信に満ち満ち、自分の幸せしか考えていない。何億といる若者もみな、マイホームを持ち、マイカーを持ち、幸せな家庭を築いて平和な日々を満喫したいと「突進」している。これが中国の「力」なのだ。(pp.334-335)

☆理屈は通っているが、少し楽観的に過ぎる考えではないか。


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