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『政府は必ず嘘をつく アメリカの「失われた10年」が私たちに警告すること』

『政府は必ず嘘をつく アメリカの「失われた10年」が私たちに警告すること』
堤未果
角川SSC新書、2012/2/25、¥819(TSUTAYA東大島)

『貧困大国アメリカ』の著者による本。現在世界の各地で起きている出来事が、「コーポラティズム」というキーワードで一つに繋がることを、原発報道・中東革命・TPP等いくつかの事例を通して明らかにしていく。

自分たち一人一人の意思決定にしろ、ディベートにしろ、メディアによる報道に依存している以上、その情報に偏りがあればそれを嘘と見抜くのはとても難しい。堤は、さまざまな取材を通して、政府や多国籍企業などによる情報統制の実態を明らかにし、どのように真実を見極めるかについて方法を提示する。また、「コーポラティズム」の代理人であるIMFの力から逃れた例としてアルゼンチンを挙げ、状況が必ずしも絶望的ではないことも示唆する。

インタビューや取材した先の信憑性に疑問をいだかせるものも若干あるが、全体としては非常に説得力のある本。特に、リビアについて西側報道とは現地の実態が全く違っていたことや、カダフィがなぜ殺されたかなど、西側報道だけでは決してわからないことについての描写には驚かされた。

●紛争解決教育の研究者であるポール・キベルは、<民主主義>は大資本にとって都合の良いスローガンの一つだという。
「現代資本主義の下では、民主主義という幻想が広まっていなければならない。既存の社会秩序を脅かさない限り、反対派や抗議を体制の一貫として受け入れることが、グローバル資本にとって利益になるからだ。反対派を弾圧するのではなく、逆に抗議運動を方向付けし、操作し、反対派にとっての限界を巧妙に設定するのだ」(p.104)

☆ウォールストリート抗議運動の資金源は実は大資本で、踊らされていただけという事実。「広告都市世界」とか「リアルトゥルーマンショー」みたいなものか。

●元外務官僚で『日米同盟の正体』の著者でもある孫崎享氏は、<アラブの春>の背後にいたアメリカの存在についてこう語る。
「日本の報道を見ているだけでは決して分かりませんが、市民運動という形で他国の政権を転覆させる手法は、すでに米国の外交政策の一つとして過去何度も使われています。今回は、それにSNSという新技術が加わったから目立ったに過ぎません」(p.109)

☆<アラブの春>について、一部では言われていたことではあるが、専門家の発言で出ると説得力がある。

●仕掛けているのは誰なのか。何のための<民主化>なのか、体制転覆後に利益を得ているのは誰なのか。2002年にベネズエラで起きた反政府クーデターは、後にアメリカ政府高官の関与が明らかにされている。クーデターの中心人物は、米陸軍で訓練を受けていた。
 だが、このクーデターを失敗させたのは一般市民の抗議デモだ。「民主化」「市民運動」という言葉のイメージに騙されず、背景や利害関係を見て判断しなければならない。「民主化」を掲げる反政府運動は、わかりやすい<正義vs悪>のイメージに踊らされず、まずは市民団体は運動家の資金元をチェックするべきだろう。[元陸軍情報諜報舞台のメンバーでありジャーナリストのウェスリー・] ターブリー氏が指摘するように、息もつかせぬショーのような報道がテレビから消えた時にこそ、その実態が表れてくる。(pp.112-113)

☆誰のための「民主化」かを見極めることの重要性。

●2011年7月、リビアのトリポリにある「緑の広場」では、大勢のリビア国民が集まり、NATOの爆撃に抗議した。その数、およそ170万人。トリポリの人口の約95%、全リビア国民の約3分の1だ。(p.117)
 私たちが日本国内で得る情報の大半は、西側の大手メディアやアルジャジーラなどの報道がベースになっている。だが、<コーポラティズム>がメディア支配を強める21世紀、大手マスコミの報道を鵜呑みにすれば、大きなリスクが伴うだろう。だからこそ、ニュースは常に、現場の声や企業の息のかかっていない独立ジャーナリストの報告と比較することが重要になる。(p.118)

☆既存マスコミの情報によって考えを組み立てる限り、真実にたどりつくことができないことを言っている。大変重要な指摘。

●ではなぜリビアは標的になったのか。[略]
「リビアは144トンもの金を保有していました。カダフィはその金を原資に、ドルやユーロに対抗するアフリカとアラブの統一通貨・ディナの発行を計画していたのです。そこにはIMFや世界銀行の介入から自由になる<アフリカ通貨基金>と<アフリカ中央銀行>の創設も含まれていました。」(p.122)

☆独自共通通貨や石油決済通貨をドルから変えようとするとアメリカに狙われる、というのはイラクの時にも言われたことで、一定の説得量はあるが、144トンで通貨発行ができるかどうかは疑問。アメリカで9000トン、日本でも800トンは持っている。

●オハイオ在住の臨床心理士であり、著作家のブルース・レビン博士は、テレビそのものが持つ、人間をおとなしくさせる作用について指摘する。
「見ている番組の内容にかかわらず、テレビを見るという単純な行為自体が、強力に人を沈静化する効果を持つのです。民間刑務所では、看守を増やすより受刑者に有線テレビを提供した方が、彼らを静かにさせておくのにコストパフォーマンスがいいという報告が出ている。権威主義的、独裁主義的社会にとって、テレビはまさに夢が実体化したものなのです」[略]
「テレビを視聴しているとき、人間の脳波は動きが鈍くなり、ある種の催眠状態になります。冷静、客観的にものを考えることが難しくなる。その結果、人々は無意識に分断されていくのです」(p.143)

☆テレビを見ると馬鹿になる、ということの根拠。

●「どうしても腑に落ちないニュースがあったら、カネの流れをチェックしろ」
 私の大学院の恩師であるブドロー教授の言葉だ。(p.162)

☆金は嘘をつかない。

●孫崎享は、点のニュースに騙されないために最も大事なことは、歴史をしっかりと見ることだという。
「人間がやることには、それほどバリエーションはありません。過去に目を向け、それまでの経緯を時系列で理解すれば、原因と結果が見えてくる。そして、世界を広い範囲でとらえることも大切です。日米関係だけでなく、アジアや中東、アフリカや南米といった複数の関係性をつなげてゆく。特に外交に関しては、決まったいくつかのパターンがあるものですから」(p.196)

☆歴史は繰り返す。本書ではTPPに似たシステムが繰り返し構築されようとしてきた経緯について触れている。


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