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『独裁者の最強スピーチ術』

『独裁者の最強スピーチ術』
川上徹也
星海社新書、2012/4/25、¥861(有隣堂亀戸)

ヒトラーと橋下徹のスピーチを例に、人に響くスピーチとはどのようなものかを整理した本。『我が闘争』はスピーチを学ぶのに最適な本の一つ、とはよく言われるが、ナチスの悪行もあってなかなか扱いづらい本だった。著者もそれについては注意を促した上で取り上げている。内容はよくまとまってい、演説における修辞のテキストとしても使える。すべては使いづらいとしてもいくつかでも実践できれば自分のスピーチもかなり説得力のあるものになるだろう。

内容と直接関係はないが、本書中の橋下大阪市長を基準にすれば、今回の消費税増税に関連した不信任決議案提出のドタバタによって、谷垣自民党総裁がいかに「人は論理ではなく感情で動く」とう大原則を理解していないかが映し出されて痛々しい。消費税増税の是非はあるだろうし、内側では合理性がある判断なのかも知れないが、消費税増税は選挙後に政権を獲ってから再度挑戦すればよいことだし、外から見れば野田総理大臣に「丸め込まれた」としか見えず、決断力・リーダーシップがない、完全に機を逸した、という印象になっている。自分だけかも知れないけれど。

●ヒトラーがナチスこと国家社会主義ドイツ労働者党の党首になったのが1921年。そして首相になったのが1933年。政権獲得までには12年以上かかっている。[略] それでも国民の大多数がヒトラーを支持していたわけではない。政権獲得直前の選挙でさえ、ナチスへの投票率は30パーセントあまりしかなかった。むしろヒトラー屋ナチスを危険視する声の方が高かったのだ。(pp.25-26)

☆支持率が圧倒的だったと思っていたので、大変意外な事実。

●ヒトラーは、書き言葉ではなく、演説こそが、世の中を動かすものだと考えていた。
「すべての強い世界的革新のできごとは、書かれたものによってではなく、語られたことばによって将来されるものだ」(下巻第六章初期の闘争—演説の重要性)
 なぜならば、書き言葉では民衆の反応をダイレクトに読み取り修正することができないが、演説ではそれが可能だからである。(pp.48-49)

☆パナジェリコスとの対比。あるいは時代の差。パナジェリコスでは書き言葉による演説こそが広く流布させるメディアと想定されたが、その都度の修正はその場にいなければできない。

●ヒトラーは、演説する場所や時間にも気を配った。
 特に夕方にこだわった。なぜなら夕方が一般的に人間の心理的バリアが一番弱まる時間帯だからだ。
 場所についても同様だ。人の心が動きやすい場所とそうでない場所がある。
 一般的に人はまわりに人が大勢いて、その熱気を感じると、自分の心も動きやすくなる。(p.53)

☆ここまで気を配るべきことに気づかされた。

●人の心を動かす演説(スピーチ)には「ストーリーの黄金律」が隠されている。その黄金律は演説のみならず、あらゆるコンテンツ(小説、映画、マンガ、演劇など)にも組み込まれており、気づかないうちに私たちの心を揺さぶっている。
(1) 何かが欠落した、もしくは欠落させられた主人公が、
(2) なんとしてもやりとげようとする遠く険しい目標・ゴールを目指して、
(3) 数多くの障害・葛藤・敵対するものに立ち向かっていく。
この3つの要素がスピーチに含まれていると、人は感情移入しやすく、心を動かされやすく、行動に駆り立てられやすくなる。(p.58)

☆過去・現在・未来に区分けすると考えやすい。

●身内に語るスピーチの際には、その団体を主人公に据えて黄金律にそったストーリーを展開していくことが有効だ。つまり主語を「我々」「私たち」にして語ると良い。そうすることで、聴衆が自分も物語の主人公として聴けるからだ。[略]
(1) 過去から現在までの、我々のストーリー
(2) 現在から未来に繋がる、我々のストーリー
シンプルではあるが、身内に語るストーリーの構成としては、非常に効果が高いものである。(p.86)

☆絶対参考にすべき。

●独裁者になるためのスピーチ10か条
(1) 何よりも本人が「熱」をもて
(2) 自分の政策を心に残るワンフレーズで表現し、それを繰り返せ
(3) 国を欠落した主人公にしたてあげ、それを救う白馬の騎士を演じろ
(4) 具体的な政策は語らず大衆に夢を見させろ
(5) かならず敵をつくれ その敵をできるだけ巨大化せよ
(6) 2つのストーリー[自分と国]を交錯させ錯覚させよ
(7) 聴衆のプライドをくすぐれ!聴衆が心の中で思っていることを話せ!
(8) 目の前にいる人間の利益になることを話せ
(9) 強い権力者にはへつらい媚びよ 用がなくなったら捨てよ
(10) 自分に風が吹いている間に、なるべく権限を奪え(p.106)

☆自分にはできない項目がいくつかある。性格だから仕方ないと諦めるか、それでもやるか、考えどころ。

●すべての前提になる大切な条件がある。それは政治家本人が持っている「熱」だ。本人に熱がなければ人は絶対に動かない。本人に熱がなければ、支持者は絶対に増えていかない。聴衆の感情が動くのは、理性からではなく、政治家本人の熱い感情に触れるからである。理性に訴えようとする政治家は爆発的な人気を得ることはできない。本人の熱が強ければ強いほど、まわりに熱が伝わりやすくなる。[略] 炭は人の心だ。何度でも火がうつるまでチャレンジし続けなければならない。火種の熱が消えたらおしまいだ。ひとりでも燃え続けなければならない。(p.106)

☆論理では人は動かない。

●揺るぎない新年を持つためには、有る意味、自分自身をも洗脳する必要がある。
 もっともよい方法が、本人が「黄金律の主人公」を演じきることだ。欠落した主人公が、無理なのではないかと言うほどの目標を持ち、いろいろな障害や敵を乗り越えていく。その物語を演じきる中で、自分自身を信じることができるようになる。(p.109)

☆スピーチ以外にも適用できる考え方。

●政策はワンフレーズのスローガンで表現しないと国民に浸透していかないし、当然伝わっていかない。[略] そのためには以下の3項目を満たす必要がある。
(1) 抽象的な概念ではなく、具体性のある政策を表現するフレーズになっている。
(2) パッと聞いて(読んで)、達成したときの情景が思い浮かぶフレーズになっている。
(3) 何かしらワクワクするような正のベクトルを持つビジョンが入っている。
[例:「所得倍増化計画」「日本列島改造論」「郵政民営化」](pp.110-111)

☆Appleでいえば"Think Diffent"か。自社でいうと何になるか。。。

●「人を動かすテコは2つある。それは恐怖と利益だ」
 これはフランスの皇帝ナポレオンの言葉だと言われている。残念ながら人の心を本当に動かそうと思うと、このふたつが効くことは事実だ。(p.127)

●「恐怖」「利益」以外にもうひとつ人間を動かす力に「名誉」がある(p.129)

☆人間の動物的行動原理。

●[橋下の] 一般的な政治家の街頭演説と大きく違うのは、聴き手に対して無駄な敬語を使っていないという点。「ございます」「させていただきます」「する所存であります」「ご支援賜りますよう」など、いかにも政治家が口にする決まり文句や無駄な言葉が入っていない。それだけでも今までの政治家とは違う清新な印象を与える。(p.167)

☆自分が無駄だと思うのは「高い席から失礼ではありますが」「諸先輩方を差し置いて僭越ではありますが」。自分が指名されたのはその資格があるからなのだから、不必要な前置きとしか思えない。

●「交渉において相手を思い通りに動かし、説得して行くには、はっきり言って三通りの方法しかない。
『合法的に脅す』『利益を与える』『ひたすらお願いする』の三つだ。そのなかでも、最も有効なのは『利益を与える』ことである。
 このばあいの利益には二通りある。一つは文字通り相手方の利益。もう一つは、実際には存在しないレトリックによる利益だ。不利益の回避によって感じさせる『実在しない利益』とも言える。」
『図解・心理戦で絶対負けない交渉術』(橋下徹/日本文芸社)より(p.219)

☆利益を与えることの重要性。

●橋下は、石原慎太郎や小沢一郎など、一般的に強いと思われている政治家に対しては下手に出ることが多い。また時の政権を批判しても、総理大臣など個人は批判しない。地方自治体の首長として、中央の権力に逆らうことが得策ではないことをちゃんとわきまえているのだ。(p.221)

☆「個人を批判しない」ことの重要性。

●橋下徹流 人をとりこむスピーチ術10カ条
(1) 一人称を「僕」にし、無駄な敬語は省く
(2) みなさーんと何度も呼びかけ連帯感をつくる
(3) 3つ並べる [例:ヒト・モノ・カネ、医療・福祉・教育)
(4) サウンドバイトで心にかみつく [=刺激的で誰もが復唱できるような単純なフレーズを繰り返す
(5) 似た構文をリフレインしていく
(6) 偽悪的に振る舞う
(7) 聴衆によって言葉づかいや内容を変える
(8) 実施する政策が歴史的大事業だと思わせる
(9) 聴衆を自分たち側に巻き込んでいく
(10) 一度チャンスを与えてくださいとお願いする(p.225)

●語尾が似ている言葉を繋げるレトリックを、結句反復(エピフォーラ)という。逆に、文頭の語句を合わせる言葉を繋いでいく修辞法を首句反復(アナフォーラ)という。(p.233)


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