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『超マクロ展望 世界経済の真実』

『超マクロ展望 世界経済の真実』
水野 和夫、萱野 稔人
集英社新書、2010/11/22、¥756(L)、4H

今起こっている世界経済危機は単なる景気循環ではなく、四百年続いてきた資本主義そのものの大転換期にいるのだ、という視点でエコノミストの水野と哲学者の萱野の対談として書かれている。

▲今まで少数の先進国が多数の途上国を搾取することで成り立っていた資本主義は、新興国・資源国の台頭による交易条件(=輸出物価/輸入物価)の悪化により行き詰まった。そこでアメリカは金融経済化によって経済にレバレッジをかけ利潤の極大化を目指したが、バブルを繰り返すだけで疲弊する。
現在の経済危機は通常の景気循環とは違うので、インフレを起こして解決するために金融緩和しても、期待する結果は得られない。

▲資本主義の初期は、国王が資本家であったが、時代が下ると国家権力の運営に携わる専門家と、労働を組織して事業をおこなう資本家にわかれてくる。資本主義の歴史を市場経済と同一視せず、権力という視点から見直す必要がある。

「交易条件の変化により資本主義の根本的な転換期を迎えている」という水野のメッセージは非常に説得力があった。また、萱野は気鋭の哲学者で世界の状況を非常にエレガントに切り取っている。二人がそれぞれの専門分野をうまく引き出しながら対談を進めていて、よくある「お手軽手抜き対談新書」とは一線を画していた。

●[萱野] 要するに、イラク戦争というのは、イラクにある石油利権を植民地主義的に囲い込むための戦争だったのではなく、[ユーロ決済に移行しようとしたイラクから] ドルを基軸として回っている国際石油市場のルールを守るための戦争だったんですね。(pp.47-48)

●[萱野] 基本的にアメリカの覇権の原則は植民地をもたないところにある。
 脱植民地化の過程で経済を支配する方法は一気に抽象化しました。つまり、領土を経由せずに他国の経済を支配するようなやり方へとシフトしてきたのです。脱領土的な覇権の確立、これがおそらくグローバル化の一つの意味なのです。(p.50)

●[水野] これまでのグローバル化というのは、つねに少数の人が外部に有利な交易条件を求めて、そこから利益を得るというかたちでしたが、いま起こっているグローバル化では、地球全体がグローバル化するぞということになって、そうした外部が消滅してしまったのですね。(p.86)

●[萱野] [社会をうまく動かせるだけのルール策定能力がないという] 意味で今後ヘゲモニーが中国に移るとは考えづらい。[略] ヘゲモニーを獲得するためにはさらに情報戦を制して、世界のお金やモノの動きにかんするさまざまなルールや制度を策定する力がどうしても必要となるのです。[略] そう考えると、中国が世界の工場になっても、その利潤をコントロールするのはやはり大西洋のどちらかの側になるだろうと思いますね。
 [水野] 私もその可能性が高いと思います。損益計算書を見た訳じゃありませんが、韓国のサムスン・グループの上げた利益のうちの半分ほどは欧米系の資本に吸い上げられていると言われています。(p.100)

▲[水野] 歴史的に資本主義のメリットを享受する定員は全人口の15%と推定できるが、今後新興国の人々が豊かになりだすと、現在豊かな先進国10億人の中の誰かがはじき飛ばされる。(pp.105-106)

●[萱野] 資本主義はけっしてたんなる市場経済として成立してきたのではありません。資本主義は長い間、先進国が軍事力を背景に有利な交易条件を確立しつづけることで成立してきました。そこでは覇権国が平滑空間[=法を無視して自分の好きにできる空間] を創出して、対等な交換というにはほど通りやり方で富を獲得してきた。この意味で、資本蓄積の原理というのは交換よりも略奪に近い。1970年代以降の金融経済化の動きだって、けっして市場の力だけでなされたものではありません。それはアメリカという国家のヘゲモニーをつうじて、そのヘゲモニーを維持するために、なされてきたものです。資本主義はけっして市場経済とイコールではなく、そこには国家の存在が深く組み込まれている。(p.121)

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