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『キャラクターメーカー―6つの理論とワークショップで学ぶ「つくり方」』

『キャラクターメーカー―6つの理論とワークショップで学ぶ「つくり方」』
大塚英志
アスキー新書、2008/4/10、¥780(丸善本店)

『ストーリーメーカー 創作のための物語論』の姉妹編。キャラクターを構成する要素を割り当てたマトリックスに、サイコロを振って決めたそれぞれの要素を、組み合わせて組み立てることで一つのキャラクターを簡単に作れる、という内容。「キャラクターを作る」とは、「物語」と不可分であり、また、その根底に「私を表現する」という問題が潜んでいる、という問題意識に貫かれている。

大塚の著書ではいつもそうなのだが、従来の文学に非常にシニカルな見方をしている。自分でも「こういう挑発的な書き方をするから嫌われるのでしょうが」(p.21)と書いているくらい立ち位置がはっきりしていて、固有性を排してサイコロの目で決めたキャラクターの方にこそ作り手の固有性があふれてしまう、という逆接を本書を通じて主張している。確かに少し一面的な物の見方に過ぎるところはあるかもしれないが、また逆に一面の真理を突いているように感じる。

●作中で主人公を見つめる「私」もまたアバター[=こちら側の人間がもう一つの世界を生きるための「化身」]である、ということは、近代小説の特徴である「内面」とは、ハリウッド映画的にいうとゴーストアバターであり、日本的近代小説としての私小説とは、ゴーストアバター形式を採用した小説、ということになります。ぼくは小説などの主人公に読者は直接感情移入するべきだという発想は「日本的」といえるかもしれない、と記したのはそのような意味においてです。(p.28)

●一つはアバターとは自分自身を見つめる視点、つまり「私」や「内面」という近代的個人とセットになったものの意味でもあること。
 二つめは、アバターは構成要素に還元できて、それは1920年代のアヴァンギャルド芸術の中にあったモダニズム的な思考に出自を持ち、決してウェブ成立以降のポストモダンなものではないこと。
 一つめのアバター観は「私」というものの固有性、「私」は「私」以外の何者でもない、という問題に関わってきます。対して二つめの問題は、キャラクターはそれを構成する単純な要素に還元され、一つ一つのキャラクターはその機械的な順列組み合わせに過ぎない、という考え方を可能にします。それは更に一歩進めれば、人間というもの一人一人に固有性があるのか否かという問いとして受け止めることができます。(pp.43-44)

●ぼくがよく明治の村上春樹という言い方で言及する水野葉舟という作家の小説「ある女の手紙」[略] は三人の若い女の子が一人の「お兄さま」に一斉に手紙を送り、誰がお兄さまの関心を魅くかを競い合う、というもので、三人の手紙が順に配列されます。[略]
 さて注意して欲しいのは、「候文」から「言文一致」にスイッチした瞬間、そこに彼女たちの「私」が現れるということです。[略] つかの間、ある種の仮想現実としての言文一致体の「手紙」の中でのみ「私」というアバターを演じることが可能であった、と感じられます。けれどもそれは「妹」たちに限ったことではなく、花袋や葉舟ら男の文学者たちも、「私小説」というバーチャルな世界で「私」というアバターに「内面」を語らせているに過ぎません。(pp.63-64)

●以前『キャラクター小説の作り方』の中でまんがやアニメ的なキャラクターが一人称叙述的な「私」をもって自己言及する形の小説を「キャラクター小説」と呼んだことがありますが、「私小説」もまたその意味で「キャラクター小説」だという立場を変えるつもりはありません。 
 しかし「私小説」がやっかいなのは、この「私」を私たちは本当の私と思いこんでしまうところです。[略] そもそもこの「私」を一人称とする文章はいくらでも「アバターとしての私」を立ち上げることができます。(pp.65-66)

●ぼくの祖母ぐらいの年代の人は、今でも頭の先に毛糸の玉がついたニット帽を「正チャン帽」と呼びますが、こsれは作中で長い間、正チャンが被っていた帽子に由来するものです。(p.116)

●アフガニスタン及びイラク戦争は、ぼくには「現実」の『スター・ウォーズ』化にしか思えませんでした。今もそう思います。(p.240)

●一つだけ余計に理解しておいてもらえると嬉しいのは、この国の近代まんが史が産み落としたキャラクターは、ポストモダン的な手法でモダンを描こうとしている点に特徴がある、ということだ。ウェブ上のアバターがそうであるように、キャラクターは一面において既に描かれたもののサンプリングと順列組み合わせに過ぎない。[略] このようなキャラクター観は近代的個人や人間の主体性を拠り所とするオリジナリティという考え方と真っ向から対立するように感じられる。(p.257)


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