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『メディア化する企業はなぜ強いのか?』

『メディア化する企業はなぜ強いのか?』
小林弘人
技術評論社、2011/12/25、¥1,554 (丸善本店)

「フリー、シェア、ソーシャルで利益をあげる新常識」と副題にあるように、SNS特にfacebookに焦点をあて、企業がいかにしてソーシャルネットに適応していくかについて述べている。
一言で言うならば、出版社がやっていたようなメディア機能を自社で持ち、ユーザーとの関係を強化していうことで自らのポジションを見つけよう、ということになるだろう。

『新世紀メディア論』でもそうだったが、小林の主張は非常に断定的で、新しいメディアを煽動する立場としてはそうならざるを得ないのかも知れないが、読み進めるのに少し苦労した。

●これまでは、ブランド企業が物語るためのメディアとして、書籍や雑誌が適任でした。今でも宝島社が「ブランド・ムック」といった有名アパレルの商品を付録に同梱した雑誌を売り、成功をおさめています。これは紙の雑誌とそのブランドのもつ価値という両者の希少性を重ね合わせた、まさに紙の雑誌にしかできない戦略だと思います。
 もう少しかみ砕くと、紙の束そのものの希少性というよりは、ここでは流通経路の希少性が活用されています。我が国の書店は、アパレルがリーチできない都市部以外にも数多く存在し、大都市圏と時差なく同時に商品(本)を並べることができます。アパレルが出店するまでもなく、ブランド価値を毀損しないように自社製品を潜在顧客に刷り込むことができる場所として、そこに書店流通というネットワークを配置したことが成功の秘訣ではないでしょうか。本を本として届けたのではなく、ブランドを売り込むための包装に使ったのです。付録という名目ならばほぼ何でも流通させることのできるリアルな図書流通ネットワークを徹底活用した好例だと思います。(pp.79-80)

●物語の力をマーケティングに利用するという方法論で大切なことは、消費者にも物語れる場を自由度を与え、企業と共に協創してもらうことです。[略]
 『遠足型消費の時代』(中沢明子・古市憲寿、朝日新書)では、そんな時代に生きる消費者の気分をうまく表現しています。
 同書は現代におけるコンサマトリー(自己充足)化を指摘し、匿名性の高い世間ではなく、自身の身近な関係性を中心にコミュニケーションが進んでいると分析します。(pp.84-85)

●『フリー』のなかで、あまり注目されていないけれども、重要なセンテンスがあります。それをここに挙げておきましょう。もともとは、編集者のスチュアート・ブラントが述べた言葉を著者のクリス・アンダーソンが言い換えたものです。「潤沢な情報は無料になりたがる。希少な情報は高価になりたがる」(p.106)

●よく聞かれる質問に、「フェイスブックは日本で流行りますか?」というのがあります。わたしは、先進層と大学生・社会人の多くはフェイスブックに引越し、ミクシィは中・高生や主婦層の既存携帯ユーザーを擁する二極化が直近では進のではないかと考えます。(p.200)


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映画『けいおん!』

映画『けいおん!』
ユナイテッドシネマ豊洲
監督:山田尚子
出演:平沢唯(豊崎愛生)、秋山澪(日笠陽子)、田井中律(佐藤聡美)
   琴吹紬(寿美菜子)、中野梓(竹達彩奈)

『けいおん!』の映画版。卒業式を前に、軽音部4人と後輩の梓はロンドンへ卒業旅行に出かける。ロンドンで演奏することになったり、さわ子先生が突然現れたり、色々ハプニングがありつつ無事に帰国。登校日の朝、教室で最後のライブをし、部室で梓のために書いた曲を4人で演奏する。

女子高生が卒業旅行でロンドンに行くのか?という現実的な疑問や、今時の女子高生はもっと打算的だろう、という突っ込みはさておき、殺人・暴力・恋愛な・鬱などの余計な心配をしないでふわふわと鑑賞できるファンタジーとして安心して見られた点はよかった。

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『「本屋」は死なない』

『「本屋」は死なない』
石橋毅史
新潮社、2011/10/30、¥1,785(L)

 元出版社勤務の著者が、全国でカリスマ書店員と言われる数人をインタビューし、TSUTAYAに代表されるただ本を並べるだけの倉庫としての書店と、棚を作り客とコミュニケーションをする書店について考察し、本屋の行く末について考える。とはいっても、いかにして「書店員」のいる本屋が今後どのように存在できるか、といった方向に考えていて、あまり論理的な裏付けのある話になってはいない。著者の中ではカリスマ書店員がいる書店が理想で、TSUTAYAや蔵書数を誇るだけの大型書店は悪だという先入観があるために、いくらインタビューを重ねてもバラ色の未来像は浮かんでこない。結果として、ところどころ面白い話は出てくるにせよ、本としては「全国でその筋の人には有名なカリスマ書店員の話を聞きました」、というだけの本になってしまっているのが残念。

伊藤清彦の推薦する南相馬市立中央図書館は一度見てみたい。

●大型書店には毎日、大量の新刊が入荷する。そのひとつひとつを売場のどこに並べるかを決めるには、ろくに読みもしないのに内容がわかっているという特殊な能力が必要になる。ずっと以前、[ひぐらし文庫・原田真弓]にコツを聞くとそれはこういうものだった。
 タイトルと装丁を見る。目次を見る。キーワードだけに注目して、立ったまま、または歩きながら三十秒読む。それだけでわかる。わからない本は商品として弱いと判断するしかない。例外は常にあって、三十秒ではわからないけど引っかかりを覚えた本は、あとでちゃんと読んでみる。[略] 毎朝、必ずやるのはその三十秒の繰り返し。自分の持ち場の箱を開けてから十分、十五分でそれを終わらせる。(p.13)

●新風舎の商売は詐欺的だという批判が常にあったのは事実だ。[略] だが新風舎の経営が傾いた要因は、詐欺的商法だという批判から客を失ったせいではなく、同業他社とのダンピング競争に陥って収益のバランスを崩し、自転車操業に陥ったためである。[略] 倒産までの数年間の新風舎は、文章といくつかの写真を載せて作るような一般的な自費出版本であれば、百万円をわずかに超える金額か、場合によってはそれ以下の値段で請け負うことが多かった。(p.56)

●伊藤[清彦、元さわやか書店店員] のように次々と日の当たらない本を売れ筋に仕立てることを得意とする一書店員の成果を、取次や出版社はPOSデータを通じてすぐにキャッチし、全国的な販売につなげる手法を確立しつつある。(p.130)

●「小説ひとつとっても、多くの書店員はせいぜい千冊から二千冊、ヘタしたら数百冊かそれ以下の読書しか積み重なっていない。田口[幹人さわやか書店店員] は、数千どころか万単位の読書体験から『安政五年の大脱走』に目をかけている。パソコンや携帯の画面上でみれば、田口と他の書店員が一緒に『いい本だ』『売りましょう』と言い合っているよ。でも、二人は同じではない。読書量の違いは、インターネットにちょっと書くものを見ていればわかる。田口は突出していると思うが、彼一人だと断言はしないよ。僕よりずっと年下でも、これは半端じゃなく読んできたろうなとわかる書店員もいる」(伊藤、p.140)

●ミスしたときに、自分にシラけちゃだめ。そこからいくらでも立て直せるんだから。(定有堂書店・奈良俊行、p.172)

● [元リブロの今泉正光は] 休日も、全然休まなかったみたいだよね。chしゃに合ったり、担当した分野を理解するために専門家のところへ通って勉強したり。それと売上スリップを家に持ち帰って仕分けして、分析する。おそらく大変な量だったと思う。話をきくたびに、俺はそこまでやってるか、って自分に問うようにしてた。
 伊藤が今泉を尊敬する理由は、行為の量にあった。純粋な努力と情熱に優るものはないという極めてシンプルな教訓がそこにはある。(p.236)

● 本屋同士でつながんのはもうやめたほうがいい。他の商売の奴とのほうが広がるよ。あと仕事のきついって話は、もうナシにしたほうがいい。労働ってのは、きつけりゃきついほど意味がある。きつい労働からしか得るもんはないんだよ。(ちくさ正文館・古田一晴、pp.246-247)

● 本屋のひとってみんな、この本は面白いですよって、内容の話をするじゃないですか。インターネット上でもみんなそれを語っているし、おすすめの本は、と雑誌で聞かれたりもして。これを続けている限り、本屋が本を売る理由って、どんどん弱くなっていっちゃうと思うんです。
 ガワの部分、そこを含めて本を語ることを意識しないといけないんじゃないか。紙を束ねていて、文字の美しさとか表紙のデザインがあって、手触りや重さがあって、そういう製本されたモノとして紹介する。文章のすばらしさはもちろん重要なんだけど、製本された状態をひとつの総合芸術として紹介しなきゃいけないんです、私たち本屋は。(原田、p.257)

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『ザ・ラストバンカー 西川善文回顧録』

『ザ・ラストバンカー 西川善文回顧録』
西川善文
講談社、2011/10/14、¥1,680(丸善本店)

 元三井住友銀行頭取の著者による回顧録。
 安宅産業の処理、磯田一郎氏の暴走とイトマン事件処理、三井銀行との合併、わかしお銀行との逆さ合併とバブル崩壊後の不良債権処理、日本郵政社長就任と亀井大臣による辞任要求など、それぞれの時代に大きなニュースとなった出来事が西川氏の視点からまとめられている。それぞれの事件や出来事については過去の新聞などを見ればわかるだろうし、おそらくあえて本書に記載しなかった事柄もあるだろうが、一人の人生の集大成として一冊にまとめられたことに意味があると言える本。
 面白かったのは、当時の磯田頭取がマッキンゼーを入れて組織改革したことが後の融資審査の甘さとなって暴走を生んだと指摘していること。また、三井住友の後継頭取に、本当は奥正之氏ではなく宿澤広朗氏を念頭においていたということ。宿澤氏が早逝したため実現しなかったが、もし宿澤頭取が実現していたらその後の経過がどのようになっただろうか、と興味深く読んだ。

●私は調査部にいた六年半というもの、帳簿など財務資料の読み込み方を徹底的に鍛えられることになった。[略] 本当にいろいろなお客がいた。いい会社とも、よくない状態の会社とも付き合った。そしてわかったのは、会社はやはり最後は人だということだ。
 中堅中小企業は、経営者の考え方ややり方がそのまま会社全体に影響するから、私たちは特に重視した。
経営者が信頼できないのに財務内容だけがいいなど、まずありえない。会社の状態がいいからといって、先のことを展望せずに守りに徹するようになった経営者の会社もダメになる。(p.49)

●[不良債権の処理など] 自分が火の粉をかぶってでも、いまやらなければならないことを先送りせず、率先垂範、先頭に立ってやる。それを見て部下たちも進んで仕事をする。経営の責任者とはそういうものではないだろうか。
 リーダーシップの要諦を理解しないマスコミの記者たちは、私のようにトップが自ら動くと「西川の独断」などと言って批判する。[略] 私の頭取時代は外部環境が日々刻々と変化していた時期だった。それに対応していくにはこちらも日々刻々の変化、スピードが要求される。組織が危機に瀕した際にはとりわけスピーディーな経営判断が必要になる。スピーディーにものごとを進めるためにはトップが率先して動くしかない。(p.208)

●リーダーシップとは、直面する難題から逃げないことである。
 リーダーが逃げないから部下も逃げないし、前のめりで戦う。経営の責任者とはそういうものではないだろうか。(p.301)

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『裸でも生きる』

『裸でも生きる――25歳女性起業家の号泣戦記』
山口絵里子
講談社、2007/9/22、¥1,470(丸善本店)

 数年前から各種メディアでしばしば取り上げられてきた著者の自伝。小学校でいじめられ、中学校で不良になり、高校で柔道県大会優勝をし、一芸で入学した慶応SFCの竹中ゼミで開発経済を勉強し、インターンで働いた国際機関のあり方に疑問を感じて最貧国バングラディシュをその目で見て、現地大学院に入学。商社の現地事務所でバイトしている時に見たジュート生地で鞄を作ることを思いつき、鞄工場を探しながら何度も騙され、信用できる人物に現地を任せることでやっと軌道に乗せる。

 著者の経歴と突破力には驚嘆するしかない。「がんばればできる」というレベルではないので、本書を参考にして何かをしようと考えても多分無理だろう。ただ、本書に関連してたまたま目にした商工ジャーナル2012.1号の取材記事での「継続する中で、客観的な分析も大事だと思うようになりました。ただ、ゼロを一にするときの突破口は個人の主観しかありません」(p.65)という考えは参考になる。

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2011年の10冊

2011年に読んだ104冊(内再読1冊)の中から選んだ、今年の10冊。

1. 『センセイの鞄』:多分ここ数年で圧倒的に一番の小説。
2. 『憂鬱でなければ、仕事じゃない 』:賛否両論はあっても見城の刺激的な言葉は力になる。
3. 『映画の構造分析』:映画の表面的なストーリーと象徴的意味についてわかりやすく学んだ。
4. 『趣都の誕生』:萌えるアキハバラの歴史的考察。
5. 『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』:地震後の不安定な世情で精神安定剤的に機能した本。
6. 『米国製エリートは本当にすごいのか?』:著者のバランスの取れた分析は参考になった。
7. 『ビブリア古書堂の事件手帖』:ミステリー部分と淡々とした日常の描写の混在が不思議な空気感。
8. 『もうすぐ絶滅するという紙の書物について』:文学界重鎮による紙の本への愛情溢れる対談。
9. 『新人OL、つぶれかけの会社をまかされる』:マーケティング入門としてとてもわかりやすい。
10. 『下町ロケット』:小説ではあるが、中小企業でどこまでできるかを描いていて勇気づけられた。

 2011年は、3月を除いて年間通してほぼ同じペースで読み続けた。地震後の色々不安定な時期に精神を平穏に保つために静かな本を求め、『かのこちゃん』や『ビブリア古書堂』がとても心を穏やかにしてくれた。その後は小説とともに思想的な本を少し読み、経営に関する本はあまり読まなかった。今年一番の収穫は川上弘美を発見したこと。何気なく手に取った『センセイの鞄』に深く深く心を揺さぶられ、小説の力を久しぶりに感じた。選外にはなったが、『R.O.D』シリーズや『万能鑑定士Q』シリーズは面白く読んだ。

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