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『ルポ 電子書籍大国アメリカ』

『ルポ 電子書籍大国アメリカ』
大原ケイ
アスキー新書、2010/9/10、¥780(L)

日米両国にまたがって出版エージェントをしている著者によるアメリカ電子書籍事情。

アマゾン・アップルなどによる電子書籍化の広がりと、従来型出版社の戦略を網羅的にえがいている。本書内で今後の戦略が注目されると書かれたアメリカ第二位の書店チェーンボーダーズはすでに破産して清算されているなど、電子書籍を巡る状況は一年の間にも日々刻々と変化し続けている。
では日本はどう対応するか、ということになると著者はその対応の遅さにいらだちを隠さない。結局、本を読者に最も良い形で届けるために電子書籍が使われるのならば対応すべきだ、というスタンスに立てば、日本の出版社や印刷会社などの対応はまさに「抵抗」にしか見えないだろう。

●[エディターのリチャード・ナッシュ]の話に何度も出てきたのは、「著者」と「読者」で作るコミュニティーという言葉だ。そこでは出版社や取次や書店は主役ではないし、なければないでよい。ハードカバーだとか、電子書籍だとか、それは出版社が作って用意するものではなく、お金を出して読む側が自分にとって一番読みやすいフォーマットを選ぶものなのだ。(p.147)

●紙の本にこだわる読者にとっては、マイナス面も出てくるだろう。これからの時代、本屋に行って、紙の本を買ってじっくり読むというのは贅沢なことになっていく。それに見合う支出をする覚悟がなければ、どんどん電子書籍が増え、紙の本の選択が狭まってくるのは避けられない。読みたいけれど、ちょっと高いから文庫になるまで待とう、と思っていたら永遠に文庫本にならないタイトルも増えるだろう。(p.170)

●日本以外のさまざまな国の出版業界関係者と仕事をしていて、彼らの口からまず出てこない言葉が「出版文化を守る」というセリフだ。もちろん、本が好きでこの世界に携わる人たちばかりなので、紙の本にたいする愛着も、仕事に対する熱意もプライドも人一倍持ち合わせている。だが一方で、出版「ビジネス」の厳しさに対する覚悟や、「本」も音楽やテレビやゲームといったエンターテインメントの一つでしかないのだという諦観が感じられることも確かだ。(p.175)

●さらに、印刷会社が主張する「組版権」というものがある。彼らに言わせれば、組版は印刷会社が作り上げた知的財産で、それは印刷会社に帰属する。だから勝手に電子書籍を作るのは組版権の侵害にあたるという言い分だ。だがこれも、こじつけとしか思えない。組版は、印刷会社が出版社からの注文にしたがって本を作る上でのただの技術であって、知的財産ではない。また、組版データを保管しているのは自分たちなのだから自分たちのものだ、と主張しているようだが、知的財産に対する権利が印刷会社に帰属しているのではなくて、単に出版社側が自分たちで管理すべきデータを預けっぱなしにしているということだ。(p.177)

●結局の所、彼らの主張する「守るべき日本の出版文化」などというものは、実のところは自分たちの既得利権にほかならない。長引く出版不況を、版元、取次、印刷会社、書店が痛み分けで堪え忍んできたのに、ここにきて外国勢の電子書籍のせいで自分たちだけが中抜きされるのはイヤだ、というところだろう。守るといいながら、競合社同士で談合し、自分たちに都合のいい規格を押しつけるのは著者も読者もないがしろにする行為だ。(p.177)

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