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『オケ老人! 』

『オケ老人! 』
荒木源
小学館文庫、2010/12/7、¥730(有隣堂亀戸)

週末旅行中に読むのにちょうどよい加減の本を探していて、書店で購入した一冊。
『ちょんまげぷりん』の著者によるアマチュアオーケストラ小説。

市の文化センターでたまたま聴いたコンサートに触発された中島明彦は、そのアマオケに入るつもりが間違って老人ばかりでまともに弾くこともできない梅ヶ岡交響楽団に入ってしまう。
やめるきっかけをつかめないままずるずると付き合ううち、さまざまな事件が起こり、問題を抱えながらも団員が増え、老人達の腕も上がってドボルザークの『新世界』を演奏するまでになる。しかし、そこにはロシアのスパイが秘密を狙って潜入している。

『ちょんまげぷりん』とはまた違った趣の現代小説で、中島が振り回されながらも次第に成長していく様子がテンポよく描かれている。著者はバスーンを演奏するようで、作中音楽的な内容も非常に具体的で説得力がある。本書を読むとなんとなく楽器を演奏したくなってくるのが不思議。

 かつてのぼくは、個人的な事情という者を軽蔑していたように思う。誰にでも、どこででも通用しなければいけない。客観的に見ていいものでなければならないと考えていた。
 だがそれは何のためになのか。音楽を聴くのも演奏するのも自分が楽しむためだ。少なくともアマチュアにとってはそうだ。もちろん人に楽しんでもらうのも喜びだけれど、最初にあるのは自分だ。[略]
 そしてもう一つ、矛盾しているみたいなのだけれど、その下手くそな演奏に、世界中の人を感動させる力が秘められている、とも思い始めた。
 確かにほとんどの人は眉をひそめるだろう。何だよこれ、と怒り出すかもしれない。ぼく地震がそうだったように。
 その魅力を理解するのはそう簡単ではない。聴く側にもテクニックが必要なのだ。そのための訓練も積まなければならない。だが耳を持った人は、そこに演奏する者の喜びや怒りや悲しみ、哲学やものの考え方、その人が生きてきた歴史を聞き取るだろう。つまるところ人生そのものが音楽の中に響き合っている。そして愛がある。いったい梅響の老人たちほど混じりけなく音楽を愛している人々がいるだろうか?(pp.376-377)

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