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『絆回廊 新宿鮫X』

『絆回廊 新宿鮫X』
大沢在昌
光文社、2011/6/10、¥1,680(丸善日本橋店)

ブックフェアで著者の無料基調講演を聞いたので、講演料のつもりで購入。今回大沢の著作は初めて。

講演で大沢は、シリーズが長くなると既存読者が次第に離れることと新規読者が敷居の高さから敬遠することから部数が減少することを問題と考えていた。そこで、今回『絆回廊』は新しい読者獲得のテストケースとしてほぼ日刊イトイ新聞に連載し、ハードボイルドなど読んだことがなさそうな若い女性層にどれだけ楽しんでもらえるか、を念頭に書いたとのことで、結果としてかなりの成功を収めたとのことだった。アマゾンなどのブックレビューを見ると、本書は必ずしも新宿鮫シリーズの既存読者にしっくりくる内容ではなく、少し薄味との意見が多いようだが、上記の理由が背景にあるのかもしれない。

新宿署生活安全課の鮫島は、ふとしたことでベテラン売人露崎から出所したての男が警察官を殺そうとしていることを聞く。その男を追ううち、全く別の麻薬ルートに絡む暴力団や中国残留孤児グループの事件を暴くことになる。その過程でつきあっていた女性や上司の課長との別れが訪れる。

読んでみて、たぶんシリーズを最初から読まないと新宿鮫の空気感はわからないだろうな、と思った。エンターテイメントとして本作だけでも十分読めるが、結局一番キモの中国人には内調との関係で逃げられていて続編がありそうで少し消化不良だし、これまでの九作分の人間関係や背景は簡単に説明されているが、やはり細かいところのニュアンスが伝わりづらい。最後の課長との別れも、九作の積み重ねがあってこそ読者が鮫島と悲しみを共有できるのだろうと思う。

●受刑者にとり、服役期間は時計の針が止まっているに等しい、と聞いたことがある。塀の中で、規則正しく変化の乏しい生活を続けているうちに、しゃばはどんどんかわっていく。子供の成長も、親しい者との死別も、胸に刻む機会は与えられない。
それこそが、"罰"なのだ。塀の内側でひたすらくりかえしの日々を送ることよりも、会いたい者に会えず、食べたいものを食べられない不自由な時間を過すことよりも、何より、変化しつづける世間とは無縁の場に長く留めおかれること。(p.304)

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受信: 2011/07/20 23:10

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