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『辺境・近境』

『辺境・近境』
村上春樹
新潮社、1998/04/23、¥1,470(借)

瀬戸内海に浮かぶ個人所有の無人島からす島で寝泊まりしたり、メキシコで武装警察が乗り込むような危険地域をバス旅行をしたり、うどんを食べにいったり、ノモンハンの戦場を中国側とモンゴル側両方から見に行ったり、アメリカ大陸を車で横断したり、といった道中を描いた旅行記。なかなか普通の人ではやらないような旅行をしていて、自分ではとても真似のできないことなので、うらやましく読んだ。奥様が一緒に旅行を続けることに叛旗を翻したところなどは、夫婦の仲が垣間見えて、微笑ましく思った。

僕らは日本という平和な「民主国家」の中で、人間としての基本的な権利を保証されて生きているのだと信じている。でもそうなのだろうか?表面を一皮むけば、そこにはやはり以前と同じような密閉された国家組織なり理念なりが脈々と息づいているのではあるまいか。僕がノモンハン戦争に関する多くの書物を読みながらずっと感じ続けていたのは、そのような恐怖であったかもしれない。この五十五年前の小さな戦争から、我々はそれほど遠ざかってはいないんじゃないか。僕らの抱えているある種のきつい密閉性はまたいつかその可能な圧力を、どこかに向けて激しい勢いで噴き出すのではあるまいか、と。(p.140)

でもただひとつだけ、僕らはそのような無名的モーテルから別の無名的モーテルへと泊まり歩きながら、アメリカにおけるモーテルについての貴重な教訓を学んだ。それは「温水プールのついているモーテルには泊まるな」ということである。なぜならまず第一に、街道モーテルの温水プールなんて、狭くて(だいたいにおいて)水が汚れていて、とてもまともに泳げた代物ではないからだ。第二に、建物の中に温水プールがあるために(ほとんどの場合、屋内中庭に設置されている)、建物じゅうが湿気を含んでもわっとしているからだ。(p.205)


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