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『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』

『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』
米原万里
角川文庫、2004/6/24、¥580(八重洲BC)

米原が1960年から1964年まで通ったプラハソビエト学校で出会ったリッツァ、アーニャ、ヤスミンカ3人の同級生の思い出と、30年後にそれぞれを訪ねて再会する話。小学校の時に体得した経験•思想が米原にとっていかに大きな財産となったかがよく理解できる。ただ、小さい頃に共産主義思想を学習したからといって、それが必ずしも一生を決める思想となるわけではないことは、タイトルにもなっているアーニャの30年後を見るとわかる。

私自身が、愛国心の萌芽のような奇妙な感情を初めて自覚したのは、まさに、このソビエト学校に通うようになってからだ。地理の教科書に、 「日本はモンスーン気候帯に所在」 という記述を見つけて、自然と顔がほころぶのを抑えきれなかったのである。[略] このときのナショナリズム体験は、私に教えてくれた。異国、異文化、異邦人に接したとき、人は自己を自己たらしめ、他者と隔てるすべてのものを確認しようと躍起になる。自分に連なる祖先、文化を育んだ自然条件、その他諸々のものに突然親近感を抱く。これは、食欲や性欲に並ぶような、一種の自己保全本能、自己肯定本能のようなものではないだろうか。(pp.122-123)

誰もがイッパシの愛国者だったソビエト学校に通ううちに、大きな国より小さな国、強い国より弱い国から来た子どもの方が、母国を想う情熱が激しいことに気付いた。アメリカ人よりプエルトリコ人の方が、自国に対する侮辱に敏感なのだった。自分こそが国を代表しているという悲壮感が強いのである。(p.125)

他人の才能をこれほど無私無欲に祝福する心の広さ、人の好さは、ロシア人特有の国民性かもしれないと、私が気付いたのは、それから四半世紀も経ってからのことだ。ロシア語通訳として、多くの亡命音楽家や舞踏家に接して、望郷の思いに身を焦がす彼らからしばしば涙ながらに打ち明けられたからだ。
「西側に来て一番辛かったこと、ああこれだけはロシアのほうが優れていると切実に思ったことがあるの。それはね、才能に対する考え方の違い。西側では才能は個人の持ち物なのよ、ロシアでは皆の宝なのに。だからこちらでは才能ある者を妬み引きずり下ろそうとする人が多すぎる。ロシアでは、才能がある者は、無条件に愛され、みなが支えてくれたのに」(pp.199-200)

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