« 『小説家の作り方』 | トップページ | 『海炭市叙景』 »

『キュレーションの時代 「つながり」の情報革命が始まる 』

『キュレーションの時代 「つながり」の情報革命が始まる』
佐々木俊尚
ちくま新書、2011/2/9、¥945(くまざわ書店 船堀店)

マスメディアから個人への一方的な情報の流れという時代は終わり、個人がそれぞれのビオトープ(岡田斗司夫のいう島宇宙化したオタクの世界のようなもの)で情報を交換するようになった。バブルの頃の背伸び記号消費(「いつかはクラウン」のような皆が共有した物語上の記号)は崩壊し、コンテキスト(物語)が消費を駆動する。消費は、承認と接続のツール(p.115)となり、コンテキストをもとめてキュレーション(つながりや物語を作り上げる視座)が重要になる。

本書の内容はタイトルと同じ見出しを持つ第四章「キュレーションの時代」でほぼ尽くされており。他の章は読む必要がない。論の展開は、無用に多く提出され必要以上にページが割かれている例(ジスモンチ、福井の眼鏡店、フォースクエア、利休、シャガール、ヘンリーダーガー、etc)や、氾濫するカタカナ用語(ビオトープ、キュレーション、アンビエント、チェックイン、セマンティックボーダー、etc)のため非常にわかりづらい。

主張自体は、今はキュレーションの時代、すなわち、新しい物語を提示してくれる人(キュレーター)の視座を共有してコンテキスト(物語)の中に身を置き、新しい情報収集や消費をする時代だ、ということで、それほど複雑ではない。ただ、その主張を読者に理解させるというより、色々勉強したことを単に書きたいというペダンチシズムに陥っているように見え、しかもそちらが主になってしまった印象があり残念。

著者は、ビオトープ化した個人は、次々に視座を変えることでそれぞれがタコツボ化することは避けられる、と主張するが、現実に進行しているのは、岡田斗司夫が『オタクはすでに死んでいる』で論じていた島宇宙化してお互いの行き来がなくなったオタク世界が、オタクの枠を越えて全面化した世界のように思える。

また、著者は、記号消費の時代が終わり、つながりを求める時代になった、という。しかし、それは、記号消費が終わったのではなく「福井の小さな田中眼鏡本舗でコンセプトYの眼鏡を買う自分って他の人と違うよね」という記号の消費になっただけではないか。マスメディアが流す記号が失効し、島宇宙化した情報流通の中での記号が消費されるようになったという可能性はないのか。つまり、著者は「キュレーション」は記号消費の世界から逃れているという前提に立っているが、それは本書中では立証されていないように感じる。

全体的に、枝分かれした議論が多すぎて、もやもやとした読後感になった。

「洋楽を好きな人」「Jポップを好きな人」「クラシックを好きな人」「ジャズを好きな人」はそれぞれビオトープ化し、言い換えればオタク化してさまざまな圏域を作り出している。そういう時代がやってきたのです。そこには「クラシックオタク」がいるだけで、「クラシックを聴いているハイソな人」というのはもはや笑いのネタでしかない。(pp.114-115)

社会との関係は接続と承認が中心になり、その接続・承認を補強するための手段として、いまやモノは買われているということなのです。この消費社会の大きな地殻変動を理解しなければ、これからの広告、これからの情報流通はもはや語れません。(p.126)

マスメディアの衰退とともに記号消費は消滅していき、二十一世紀は「機能消費」と「つながり消費」に二分された新しい世界が幕を開けるのです。(p.128)

情報が流れるということは、情報を得るという即物的な機能だけではなく、そこに「情報をやりとりすることで人と人とがつながる」という共鳴が同時に成り立つような、そういう時代になってきている。(p.203)

「視座」を提供する人は今、英語圏のウェブの世界では「キュレーター」と呼ばれるようになっています。そしてキュレーターが行う「視座の提供」がキュレーション。[略]
[学芸員の意味で使われるキュレーターの行いは]情報のノイズの海からあるコンテキストに沿って情報を拾い上げ、クチコミのようにしてソーシャルメディア上で流通させるような行いと、非常に通底している。だからキュレーターということばは美術展の枠をはみ出て、いまや情報を司る存在という意味にも使われるようになってきているのです。(pp.210-211)

情報のノイズの海の中から、特定のコンテキストを付与することによって新たな情報を生み出すという存在。それがキュレーター。
あるアメリカ人のブロガーは「コンテンツが王だった時代は終わった。いまやキュレーションが王だ」と書きました。
一時情報を発信することよりも、その情報が持つ意味、その情報が持つ可能性、その情報が持つ「あなただけにとっての価値」、そういうコンテキストを付与できる存在の方が重要性を増してきているということなのです。(pp.241-242)

|

« 『小説家の作り方』 | トップページ | 『海炭市叙景』 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/40886/51652181

この記事へのトラックバック一覧です: 『キュレーションの時代 「つながり」の情報革命が始まる 』:

« 『小説家の作り方』 | トップページ | 『海炭市叙景』 »