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『グーグル秘録』

『グーグル秘録』
ケン・オーレッタ、土方 奈美 (翻訳)
文藝春秋、2010/5/14、¥1,995(L)

Avantiで推薦されていたので読んだ。
グーグルの創業から2009年までの動向を、IT業界のみならず伝統的TV・広告業界などの対応も交えて描いた本。世界の全てを検索することを目的とするグーグルは、世界を破壊的な速度で均質化する。その実態を明らかにすることで、IT業界のみならず、伝統メディアまで含めた世界がどのような道を歩むのかを分析する。

13週間にわたり、グーグル幹部・社員や関連業界のキーパーソンへ数多くのインタビューを重ね、客観的な事実とインタビュー内容をうまく織り交ぜて書かれている。著者の問題意識もさることながら、これだけの取材能力のあるアメリカのジャーナリズムの強さを感じる。

グーグル社員は自らが邪悪にならないことを社是としているために、社会が自分たちを攻撃するのを理解できない。グーグルのIPO後に「EPIC2014」が作られるのを見て、彼らがナイーブにショックを受けた(p.190)という事実は、彼らがいかに社会をわかっていないかを示している。始末に負えないのは、自分たちの影響力が、伝統的産業を破壊し、そこで生計を営んでいる人々の生活を破壊することに想像が及ばないということだ。それは、書籍と出版に関するブリンの「お気楽な認識」(p.192)を示すエピソードからも伺える。

新聞社の破綻が相次ぐことによって組織的につっこんだ取材が必要な報道は危機にさらされ、出版社は利益が圧迫されてまじめな作家を支えることができなくなるだろう。テレビ局はコストのかからないリアリティ・ショーやぶっつけ本番の生番組ばかりを流すようになり、ケーブルニュースは取材不足をキャスターのトークでおぎなうようになるだろう。"コミュニティ"や"プライバシー"といった言葉の定義が見直され、市民が情報を読んだり、加工したりする方法が変化し、伝統的なメディアのビジネスモデルの多くはグーグルのようなネット企業によって再構築されていく。こうしたことを考慮すると、グーグルという企業をきちんと知っておくことはきわめて重要だ。(p.12)

グーグラーは"すべて"を疑う。「創業者たちは常に『なぜ従来のやり方をしなくてはいけないんだ?"[従来の法外なテレビ広告費を顧客に使わせる]魔法をぶち壊し"にして何が悪い?』と問いかけていた」と[マリッサ]メイヤー[副社長]は語る。(p.25)

[元フットボールコーチのビル・] キャンベルは [1984年] アップル入社後、ほんの数ヶ月でセールスだけではなく、マーケティングも担当するようになった。そしてコンサルタントや [略] セールスマンの大半をお払い箱にした。その代わりには、大学を卒業したばかりの若者を採用した。半数は女性で、だれもが成功したいというハングリー誠伸にあふれていた。「コーチの経験から学んだのは、敵より小さくてスピードも遅ければ、おしまいということさ!」(p.132)

検索エンジンの名称はバックラブからグーグルに変えた。十の百乗を意味する、グーゴル(googol)のよくあるスペルミスだ。理由は「きわめてスケールの大きい検索エンジンを構築するという、僕らの目標にふさわしかったから」と[ペイジは] 説明する(実際にはグーゴルと命名したかったのだが、ドメインネームが既に取得されていた)。(p.67)

ラジーヴ・モトワニは2009年に事故死するまで、ブリンと最も親しかった元指導教官だ。モトワニは、二人について最も印象に残っているのは「なぜ?」という質問を繰り返したことだという。「子供のように『なぜ?』と繰り返すことによって、彼らは何度も私の考えを覆してきたんだ」(p.176)

[CEOとして成功する条件] については、元ヤフーCOO [略] ダン・ローゼンスウェイグが優れた指摘をしている。「CEOとして成功するには、エンジニアリング、起業家精神、企業文化、それに優れた経営と言った様々な要素のバランスが大事なんだ」。(pp.181-182)

予定されていた三回の取材のうち、二回目のことだった。[略] ブリンは私をからかった。「誰も本なんて買わないよ。ネットで公開しちゃえば?」。つまり、無料で出版しろというのだ。
「ネットで公開した方が、儲かるかも知れないよ。その方が多くの人に読まれるし、感動を与えられるじゃないか」
「無料の本という試みが成功する保証はないよ」と私は言った。かつてスティーヴン・キングが挑戦したが、見込みがないとあきらめてしまった。ブリンは、「そうかもね」と、ややきまり悪そうに認めた。
ーーグーグルのビジネスモデルから判断すると、君は作家が書籍の中に広告を掲載すれば、収入が入ると思っているのかい?でも出版社が前払い金を払ってくれなければ、作家はどうやって経費を賄うんだ?(私は本書の執筆にあたり、十三週間にわたってグーグル本社とニューヨークを往復し、レンタカーを借り、ホテルに宿泊し、ほぼ毎晩取材協力者の夕食代を負担した)。出版社がなかったら、誰が原稿の編集とそのコストを引き受けるの?内容を精査する弁護士の費用は?潜在的な読者に本の存在を知らせるためのマーケティング・スタッフはだれが雇うんだい?[略]
この会話はブリンとペイジ、そして二人が生み出したダイナミックなグーグルという会社について、ある重要な事実を示している。彼らの論理的な出発点は、伝統メディアのやり方はたいてい非効率的だ、だから変革しなければならない、ということなのだ。(pp.192-193)

[出版物の] 海賊版が横行することへの懸念を具体的に示そうと、[出版協会会長でランダムハウスの上級副社長だったリチャード・] サーノフは自分のアイフォンを取り出した。
「この小さな端末には、五万冊の書籍を簡単にダウンロードして蓄積できる。中規模の書店の在庫にほぼ匹敵する分量だよ」(p.194)

[CBSインタラクティブ社長兼CEOのクインシー・] スミスは [CBSのCEOレス・] ムーンベスの誘いを受ける直前に友人から聞いたたとえ話を引きながら、自分の役割をこう説明する。当時は友人の考えだったものが、今では彼自身の信念となっているようだ。
「伝統メディアは城壁の中に陣取っている。そんな彼らに、求めるものが見つかるという保証もないままに、城から走り出ろと言わないといけないんだ。矢が雨のように降り注ぐ中、川を渡り、湿地を越えて、丘を越えろ、と。『矢は当たらないから大丈夫』なんて請け合うことはできない。何の約束もできない。そんな選択を迫られたら、伝統メディアが場内にとどまるのは当然だ。でも最後にはどうなる?いずれ矢の代わりに石弓が飛んでくるようになって、命からがら逃げる羽目になるんだ」(pp.248-249)

「これほどウォール街と広告主から愛されながら、これほどメディア企業から嫌われる会社はほかにない」とスミスは語る。「メディア企業には、グーグルがプラットフォーム業者であることが分かっていない。そう、グーグルはプラットフォームなんだ。メディアがコンテンツから収益を得るのを助ける存在なんだ」(p.254)

2001年にCEOに就任したセメルが、ヤフーに優れた判断力と人材を持ち込んだのはまちがいない。ただ、やはりある疑問は残る。ヤフーが技術的に後れを取ったのは、CEOが技術を理解できなかったためではないか?スティーブ・ジョブスが解雇された後、アップルが技術的に後退したのも、そのためではないか?(p.307)

ペイジは、自分とブリンの役割は"大きなビジョン"を示すことだと語る。そしてインテルのゴードン・ムーアの提唱した"ムーアの法則"[略]の話を引き合いに出す。ムーアの法則は一見、技術的イノベーションに関する洞察のようでいて、実際には経営の在り方を示すものだというのだ。
「ムーアの法則は普遍的ルールのように思われがちだけど、本当は経営革新の話なんだ。『我々はコンピュータの半導体の性能を、十八か月ごとに倍増させる。それを実現する態勢を整えようじゃないか』という決意表明だ。インテルはその実現に数十億ドルを投資した。指針としてのムーアの法則がなければ、進化はそれほどのスピードで進まず、もっと場当たり的だったはずだ」
性能を二倍にするという経営者のプレッシャーが、それを確実なものとしたのだ。(p.309)

[iPodが出たての]頃、ウォークマンはともかくも携帯音楽プレーヤーとして支配的な地位を占めていた。私は当時CEOだった出井伸之に尋ねたことがある。
「アイポッドに脅威を感じるか?」
出井はまるでジャケットについた糸くずでも払うかのように否定した。
ーーソニーやデルはものづくりを知っている。アップルは知らない。1〜2年のうちに、アップルは音楽産業から手を引くはずだ、と。(p.348)

モルガン・スタンレーのメリー・ミーカー[Mary Meeker]は2008年12月のレポートで、伝統メディアを震撼させるようなデータを示した。「噛み合わないメディア消費と広告支出」と題した図では、広告支出の配分が、消費者のメディア利用の状況と一致していないことを浮き彫りにした。
例えばメディア利用のうち、消費者が新聞を読むのに使う時間は7%だが、広告支出の20%が新聞に使われている。対照的にインターネットには25%の時間が使われているが、広告支出に占める割合は8%にすぎない。
広告はある時点で、恐らく劇的に、伝統メディアから離れていくだろう。米国にとって1930年代以来最悪の不況を割り引くかはともかく、変化は猛烈な勢いで伝統メディアに押し寄せている。(p.396)

[Neil Postmanは"Amusing Ourselves to Death"で] 人間にとって最も恐ろしい脅威は、[略] オルダス・ハクスリーの『すばらしい新世界』に描かれていると指摘した。[略]
「教養のある人々ですら誤解しているが、ハクスリーとオーウェルは同じ脅威を予言しているのではない。オーウェルは我々が外部からの強制的な抑圧に屈すると警告した。だがハクスリーは、人々から自立性や成熟や歴史を奪うのに、"ビッグブラザー"など必要ないと考えた。人々は抑圧を喜ぶようになり、考える能力を奪うような技術をありがたがるようになるという。オーウェルは我々から情報を奪う者を恐れた。ハクスリーはあまりにも多くの情報を与えることで、我々を受動的で自己中心的にしてしまう者を恐れたのだ」(p.407)

彼ら[グーグル社幹部]の協力なくして、この物語を執筆することはできなかっただろう。私は何週間にもわたってマウンテンビューのグーグル・キャンパスに滞在し、CEOエリック・シュミットに対する11回のインタビューを含めて、合計150回のグーグル社員へのインタビューを行った。[略] わずか一人の副社長を除き、サーゲイ・ブリン、ラリー・ペイジのほかグーグル取締役など、取材を希望した相手にはほぼ全員、複数回インタビューをする機会を得た。古参社員の一人であるデビッド・クレーンは、上司の許可を得てほとんどのインタビューを設定し、同席したが、途中で妨害したり口を挟んだりするようなことは一度もなかった。[略] 出版前に本書に目を通したグーグル社員はいない。すべてを明らかにするリスクを進んで受け入れてくれたグーグルに感謝している。またグーグル関係者以外でインタビューに応じてくれた、約150人の方々にも感謝している。その多くは伝統メディアの幹部だ。(pp.511-512)

本書中にある面白そうな本:
 "Amusing Ourselves to Death" Neil Postman
 『伽藍とバザール』エリック・レイモンド、光芒社、1999

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