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『本は、これから』

『本は、これから』
池澤夏樹 (編集)
岩波新書、2010/11/20、¥861

池澤夏樹と36名の著者が各々本について語ったエッセーをまとめたもの。『本は、これから』というタイトル通り、電子書籍の普及により紙の書籍が次第に力を失いつつある現状で、これからどのように書籍の電子化に向き合うか、様々な立場の意見が述べられている。紙の書籍を残したい、という思いの著者が比較的多い印象だが、みな電子書籍の影響力には目を瞑ることができない。自分の理解の範囲を超えた出来事を目の前にして、どうしよう、と迷っている様子が描かれている。
ただ、電子書籍を推進している萩野正昭ボイジャー社長のような著者はいるものの、「紙の本なんか絶滅するに決まっている」とはっきり言い切る著者を入れなかったのは、やはり岩波だからか。本当はそういう意見こそ聞きたかったのだけれど。
あと、久しぶりに岩波新書を読んだが、気のせいかいやに書体がよみづらくなっていた。

本というのはまことに特殊な商品で、多品種少数生産とか(少なければ五百部でも作る)、お一人様一点販売とか(ラーメンなら毎週買うのに)、徹底した選別性とか(秋成がないなら西鶴でいい、ということにはならない)、いろいろ制約が多い。(池澤、p.iv)

紙という重さのある素材を失ったために文筆の営みはすっかり軽くなり、量産が可能になった分だけ製品はぺらぺらのものばかりになった。そもそも人類の知の総量が変わるはずがないのだからインターネットによって生産を加速すれば中身は薄まる理屈だ。電子ブックはその一つの段階でしかない。(池澤、p.x)

私流の、「これから発展する国の見分け方」を編み出しました。書店が多数あり、国民が読書にふける国は発展する、というものです。(池上彰、p.13)

出版社にとって本と雑誌は意外に差異がないものかも知れませんが、まったく異なる機能に思えます。一言で言えば本は時空を超えることを目指すけれども、雑誌は反対に情報が位置づけられるべき(使用される)特定の時間、空間ーー場の「現在性」こそを、提示するものである。(岡崎乾二郎、p.52)

大雑把に言ってワタシは、二一世紀というのは、「何を読み、聴き、喰い、経験したか」という、加算的/攻撃的なプロフィールの時代が終わり、「何を読んでなく、聴いてなく、喰ってなく、経験してないか?」という、減算的プロフィールの時代だと思っています。加算的なプロフィールは、不可避的に「知ったかぶり/粉飾申告」という背伸びの強要を生み、結果不安を増大させ、現在というのは、この不安に対する心理的な防御策ばかりが講じられる鬱病の時代ですが、「オレ実は○○は読んで無いんだよね」といった自称が、「そんなもんには興味ないんだよね」といった攻撃性や「読まないと恥ずかしい」といった劣等感と無縁に、単に「自分にはこれが欠けている。それによって自分が構成されています」という、フラットな自己イメージの在り方の一般化として定着したら良いと思いますし、そうなると思っています。(菊地成孔、pp.74-75)

ながらく不思議に思っているのだが、たった一冊の本をたぐりよせられないという日がある。[略] 一種のタイミングではあるのだろう。空振りしたときのことを改めて思い起こせば、そもそも自分のほうに本をつかまえるパワーが足りなかったような気がする。(柴野京子、p.105)

では活版印刷が普及する以前の世界で、本はどのような存在だったのか。それを知るのに格好の本がある。歴史家ブルクハルトの『イタリア・ルネサンスの文化』(柴田治三郎訳、中央公論新社)である。[略] もう一つ、ホイジンガの『中性の秋』(堀越孝一訳、中央公論新社)をみてみよう。(外岡秀俊、pp.119-120)

いっぽうで、書庫は理想の自分を表現しているのであって、けっして読み終わった本の倉庫ではないとも思っている。いつかは買い溜めてある立派な本を読み、本物の知性を身につけたダンディな自分の姿を夢見ているのだ。(成毛眞、p.175)

著者と出版社とアップルなどの電子書籍取次の取り分、端末機器の栄枯盛衰などを机上で想像することは楽しいのだが、ビジネスマンの方法論ではない。さまざまな読者・消費者の行動を合成したものが市場である。それゆえに、将来の市場を予測するためには、その現場たる個々の読者の行動をよく理解する必要があるのだ。(成毛、p.178)

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