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『国家の命運』

『国家の命運』
薮中 三十二
新潮新書390、2010/10/20、¥714

元外務事務次官の著者による日本外交についての所感。国家の命運について大上段に構えた本ではなく、外交官として著者が経験し、個人的に考えたことを綴っている。
一歩引いた、官僚的な人物かと思っていたが、内に秘める闘志は伝わってきた。特に、交渉ごとは50-50ではだめで、最低でも51-49でなければならない、という著者の考え方は、外交の一般的な考え方より攻撃的な姿勢だな、と少し驚いた。大阪大学3年でESS部長をしていた時に外交官試験を受け、中途退学して外務省に入省した経歴なども、そのような姿勢に影響しているのかもしれない。
「外交インサイダーとしての立場を利して、個々の政治家について論評したり、暴露的レポートをお届けしたりするつもりは毛頭ない」(p.7)という著者の言明は、次官まで務めた人間として、佐藤優など暴露的レポートをしている元外交官とは違うのだ、という矜持を見せた、とも受け取れるが、官僚エリートとして墓場まで持って行く立場の人間であるから、それは当然、という気もした。
そのような姿勢で書かれているので、秘密暴露的な話はないが、外交の基本的な考え方や日本としてあるべき姿勢を学ぶことはできた。

日本のなかだけの話なら、受け身のアプローチは「奥ゆかしい」とされるかもしれないが、世界を相手にした交渉ではまず通用しない。それよりオフェンス、何よりロジックのあるオフェンスが必要なのである。(p.52)

交渉という観点からは、「できない」を繰り返すのではなく、「何ができるのか」を自分の発意で示すこと、これが大きく効いてくる。要求に対して受け身ではなく、オフェンスに出る。つまり、「Yes, we can」であり、これこそが評価されるポイントなのだ。[略] 専門家たちがアフガン奥地まで入り込み、教育、医療、農業、道路、治安など社会的インフラ整備にたずさわる姿勢は各国の共感を呼んでいる。平和を構築するための、日本独自の方法がアメリカはじめ世界的にも高く評価されるようになってきた。(p.63)

外交官として各国の人々と接していると、「今の日本は、世界でもっとも素晴らしい国だ」とはっきり言う人が少なくない。
事務次官をつとめていた頃、私は、各国の駐日大使が離任するときにお別れのランチを差し上げることにしていた。その際、どの大使も、ほぼ例外なく、「ニッポンは素晴らしい国だ」「この地での勤務は自分の人生で最高の経験だった」と言ったものだ。[略]
では、日本はどう素晴らしいのか。彼らに聞くと、「自然がきれい」「文化が素晴らしい」「食べ物が美味しい」「安全でどこにでも安心して行ける」「日本人は親切」ーーなどが共通した評価だった。最近は大使達の間でも温泉ブームで、日本各地の温泉を絶賛する大使も多かった。
自然の美しさや、治安の良さは、日本人にとって当たり前で、とりたてて人に言う必要がないと思われるかもしれない。しかし、世界標準ということで考えると当然視すべきではなく、やはり素晴らしいことなのである。(pp.72-73)

他国からみると、日本が抱える最大の問題はデモグラフィー、すなわち人口動態の変化なのだ。高齢者が増え、それを支える現役世代が反比例して減ってゆく。その上、人口そのものが減少していく社会というのは、常識的には生活水準が下落し続ける、先行き不安だらけの世の中である。(p.77)

外交で一方勝ちはダメ、という原則がある。50対50のバランス感覚、フィフティ・フィフティが一番良い交渉結果だともいわれる。[略] しかし、私はしっくりと来ないものを感じている。やはり交渉ごとは結果が大事であって、そこで少しでも自分に有利な結果を勝ちとる、それが交渉の目的ではないかと思うし、実際、そう考えて外交交渉にたずさわった。
だから、できることなら60対40で、こちらに有利になるように考えをめぐらせる。[略] 最低限、確保すべきは51対49であり、そこから少しでも上乗せしていって、60に近づける。これは私の一貫した交渉原則だった。(pp.120-121)

私はいつの頃からか、六者協議が北朝鮮の立場を守る安全弁になっているのではないか、という疑問を持つようになった。北朝鮮が六者協議の再開を否定すると、各国が過剰に反応する。そして北朝鮮が六者協議に戻ってきさえすれば、問題が解決したかのような錯覚を起こすからである。(p.124)

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