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自壊する帝国

自壊する帝国
佐藤優
新潮文庫、2008/10/28

「獄中記」「国家の罠」の著者、佐藤優が、外務省ロシア課の職員としてモスクワ駐在時に見た、ソ連崩壊を描いたノンフィクション。
「国家は崩壊することがある」という冒頭の一文が、自ら経験したことを述べる自信を物語っている。外務省に入省した経緯、モスクワ大学への留学とそこで出会った親友、改革派・守旧派双方の有力政治家との交流、リトアニア独立に貢献して叙勲された経緯、など退屈することなく読み進めた。
時系列的に見ると、「獄中記」「国家の罠」の前史といった位置づけになる。

[アレクサンドル・カザコフ]「プロテスタンティズムというのは抵抗者の思想だろう。カトリシズムに対して抵抗しているので、積極的に何かを主張しているわけではない」「プロテスタンティズムは基本的に壊しの思想だ。[中略]彼らは基本的に何かを内側から創り出すことができない」(p.172)

「帝政ロシア時代にも分離派出身の技師や労働者は結構いた。それから商人に多い。帝政ロシアのモロゾフ財閥の分離派だ」
「モロゾフ一族の一人が日本に亡命し、お菓子屋を作った。モロゾフという会社で、今もロシア風のチョコレート菓子(コンフェエート)を作っている」[中略]
私はモロゾフのチョコレート菓子を土産にし、日本の食文化にロシアが入っている例としてロシア人に説明すると、とても好評だった。北方領土を訪れるときもモロゾフのチョコレート菓子をもっていった。外交の世界で食に絡む話はよい小道具になる。(p.213)

[シュベード自由民主党副総裁]「ユートピアとか怨念で動くような政治はロクなものじゃない。政治はもっといい加減なものなんだ。だから政治に関わる人間はもっといい加減にならなくてはならないんだ。権力とカネは交換可能なんだ。その場、その場で臨機応変の対応を積み重ねていく。それでいいんだ」(p.416)

また、情報源である高官だけでなく、秘書官や電話交換手やタイピストと親しくしておくことが重要だ。私は秘書官や電話交換手の誕生日には必ずシャンペンを届け、高官の事務所の女性職員に大しては3月8日に国際婦人デーに必ずバラの花と口紅を贈った。このように陰徳を積み重ねておくと、いざというときに上司に電話をつないでもらうことができるのである。(p.442)

一般論として、機微な情報を得る場合、留意することは二つだけだ。第一は、その人物がこちら側が必要とする情報をもっているかということだ。[中略]第二は、その人物が知っている情報をこちらに性格に伝えてくれるかである。(pp.446-447)

ソ連崩壊により東西冷戦が集結してから十五年が経つのに、いまだ日本の論壇には「左」、「右」という「バカの壁」がある。これを打ち破るために、書き手と編集者が少しだけリスクを冒す必要があると考えるのだが、私の意見に賛同し、実際にリスクを負う編集者がここで名前をあげた編集部にはいる。日本国家と日本人が生き残るために活字文化の役割は重要と思う。(p.524)

人間は易きに流れるものである。そこで、私は小説を独房に持ち込まないことにした。そして、学術書を中心に220冊を読んだ。読書をするとともにB5版のノートに、書籍からの抜き出し、それに関連したメモ、手紙の下書き、語学や数学の練習問題の解答案、思索メモなどをつづった。ノートは全部で62冊になった。(p.529)

ほんとうによい本には独得の魔力がある。友人にその本を読ませたくなるのである。ソ連時代、書籍の刊行も計画経済に組み込まれていたので、本を重版することはなかった。そこで、ロシアの知識人はよい本が出ると、同じ本を5冊も10冊も買う。そして、その本を喜んで読むような友人に寄贈するのだ。そのときにカネは取らない。私にもその習慣が伝染し、いまでもよい本を見つけると2、3冊購入し、友人に送る。ちょうど仔猫が生まれると、一匹一匹を誰のところに預けるのがその仔猫にとって幸せなのかを考えるときの感覚に似ている。そういう場合、決して対価は受け取らない。このようにして、知的情報の流通に関して、商品経済と異なる領域を意図的につくることが、経済合理性のみに拘束されるのではない思想の自由を担保する上で重要と私は考えている。(p.562)

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