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日本人の精神と資本主義の倫理

日本人の精神と資本主義の倫理 (幻冬舎新書 は 3-1)
波頭 亮、茂木 健一郎
幻冬舎新書、2007/9/30

いかにも「プロ倫」をパクりました、というタイトルに釣られて買った。
だいたい言っていることは次の通り。

・ピアプレッシャー(出る杭は叩く/平均値に引きずり下ろす)が強い日本では個性が出ない。
・日本人にはビジョンが欠けているから欧米に勝てない。
・経済だけを価値観とするモノカルチャーを脱してもっと様々な価値観を大事にせよ。
 たとえば、日本の神社など、文明化以前のものに思いをはせよう。
・経済格差を気にするな。
・自分たちの言っていることのほとんどは、戦争開始直後に「近代の超克」で語られたことの繰り返し。

言っていることにそれほど違和感はないが、対談なので深い議論にまでは行っていない。問題提起としては興味深いことは言っているが、ともすれば「今の日本はだめだよね」というよくある話に堕しかねない危険性をはらんでいる。

アメリカで寄付が盛んなことを採りあげてピューリタニズムの倫理が生きているという一方、日本の富裕層が寄付をしないことを挙げて、倫理性が軽視されていると非難する。(p.18)
アメリカのIT科学者が100ドルパソコンの普及を目指していることを例にビジョンがあると言う一方で、日本にはビジョンがないと嘆く。(p.117-118)

確かに対談で語られるこのような例はアメリカでプロテスタンティズムの倫理がいまだそこに健在であることを示しているかもしれないが、ではそれに対して日本における倫理とは何か、について何を語っているのか。経済合理の価値観だけではなく昔の神社のようなものを大事にしよう、というのが倫理だというのか。どうもよくわからない。

序文で茂木は確かにプロ倫のことを書いているが、それならばタイトルは「日本人の倫理と資本主義の精神」であってしかるべきだろう。なぜ「資本主義の倫理」なのか、今ひとつ納得がいかない。
資本主義は経済制度であって、合理主義という精神はあるがそこに倫理はない。ウェーバーはプロテスタンティズムのもつ禁欲的、天職観念という職業倫理がいかに経済合理という資本主義の精神を体現したか、ということを論じたのであって、資本主義に倫理があると論じてはいない。
もしウェーバーを本書に当てはめるならば、日本人の倫理がいかに資本主義の精神とかかわるべきか、という議論ならば納得もいくが、その逆というのは私にはどうも理解ができないし、序文での茂木はそれを認識していたはずだ。

第一章「大衆というバケモノが野に放たれた」を共産党宣言のパロディと読むのはさすがに考え過ぎか。

本書中、波頭がワーキングプアのことに触れ、年収200万でも生活できる、などといった話をしているが、この点だけはいかにも認識不足と言わざるをえない。今やワーキングプアの問題は生死に直結していて、しかも今普通の生活を維持できていてもいつそこに落ちるかわからないという不安定な生活を強いられる予備軍が多数待機している、という現状を把握していないとしか思えない。

あとがきで波頭は、自分たちの語ったことが「近代の超克」の延長であることを率直に語っている。「逃走論」もポストモダンも問題を解決しなかった今、逃げている場合ではないのだ(p.188)、と波頭が述べるとき、本書を読んだ後ならば一定の説得力を持つだろう。ならば本書のタイトルはプロ倫からではなく「現代の超克」とでもパクるべきではなかったか。

少なくとも自分よりは頭のよさそうな二人の対談本だから、不備はいろいろ指摘できたとしても刺激を受けたことは確かだ。だからこそ、本書にはもっとタイトルをしっかり詰めてほしかった。自分はタイトルで釣られて買ったので、出版社の商売としてはこれで正しいのかもしれないけれど。

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コメント

「近代の超克」ですが、宮台真司はそもそも日本は社会的な意味では近代化されてないので、「超克」する以前にちゃんと近代化しろ、と言ってますね(笑)

本書は読んでいませんが、ビジョンの辺りのお話は税金の問題とか、市民社会的なありようが影響していて、、一概にビジョンだけでは語れないところではあると思います。

とは言え、タイミングを見て読んでみます。

投稿: taka893 | 2007/10/14 00:08

茂木さんの話は興味深いのですが、脳科学というより現代思想として聞いた方がしっくり来る気がいたします。宮台のことは浅学のためよくわかりません。

投稿: godspeed | 2007/10/14 21:33

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