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東電OL殺人事件

東電OL殺人事件
佐野眞一
新潮社、2003.08

 1997年3月8日深夜、渋谷円山町で起きた女性殺害事件について、事件発生から一審判決まで著者がその目で見、調べたことを克明に記した本。この事件では、昼間は東電管理職、夜は売春婦という二つの顔をもつ女性が被害者だったことからマスコミの格好の標的となり、世間もそれに合わせて下世話な興味に突き動かされて、被害者のプライバシーが暴き立てられた。
 本書は、被害者のプライバシーそのものを描くことには重点をおかず、むしろ彼女がなぜ二面的な生活に追い込まれていったか、その点を丹念に書きつづっていく。そしてその結果、結局なぜそうなったかについて確定的な結論を下さず、材料だけを提示して結論は読者にゆだねる。また、本書は、裁判を傍聴しながら、警察によって最初から犯人と決めつけられたネパール人が、いかにいい加減な証拠によって犯人に仕立て上げられたかについても、鋭く批判を加えていく。(著者はこの逮捕がえん罪であることを強く訴えているが、本書に書かれた裁判記録を丁寧に読めば、被告にも十分に疑いが残ることは否定できないだろう)

 被害者が同じ研究会の(はるかに年上で優秀な世代の)同窓生であったことから、少なからず興味を持っていながら、あまりに下品なマスコミ報道に辟易として、今まで本書を読むこともなかった。事件後10年経った今、本書を手に取る気になったのは、著者ならおかしなことは書かないだろうと思っていたし、世の中が事件を忘れた今なら冷静に読むことができるだろうと考えたからである。
 事実、他の著書に比べて若干被告に肩入れしすぎて感傷的な筆になっている感はあるけれど、本書はその期待を裏切らなかった。また、事件後の10年で、様々な人の死を見て、知人がなくなったときになかなか言葉が出てこなくなったが、被害者の死についても、「残念だ」という言葉でしか語ることができない。

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